1. 松本千登世の『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる(25)』 ‟空気の中で美しい人”

2018.09.27

松本千登世の『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる(25)』 ‟空気の中で美しい人”

美容ジャーナリスト・エディターとしてVOCEでも出演、取材、編集、執筆と活躍中の松本千登世さん。その美しさと知性と気品が溢れる松本千登世さんのファンは美容業界だけにとどまらない。こちらの美容エッセイ『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。』(講談社)から、ぜひ今日も、「綺麗」を、ひとつ、手に入れてください。

松本千登世の『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる(25)』 ‟空気の中で美しい人”

空気の中で美しい人

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スタイリストの池田奈加子さんは、表面的でなく、女性像まで深く追求し、表現する、私の大好きな女性。彼女がふと、呟いた言葉にはっとさせられました。

「スタイリストになりたてのころ、尊敬している同業の女性に『この職業にいちばん重要なことって何ですか?』って聞いたら、『世の中を知ることね』。以来、その言葉が私の根幹になっている気がするの」。

最先端のトレンドに精通していることもファッションの歴史を熟知していることも、きっと大前提。でも、核になるのは着る人の「気持ち」。政治も経済も、社会も自然も、今、世界がどうなっているのか、日本がどうなっているのか。それらをきちんと知って「空気」を感じたうえで、自分も周りも「心地いい」と感じる洋服を選べること。どんな着こなしも、空気に合わなかったら決して綺麗とは言えないのだから。一歩も二歩も引いて見たときに、空気の中で美しい、存在ごと輝くのはそんな女性なのだ、と……。

美容も同じかもしれません。シワ一本、毛穴一個にこだわりすぎて、自分を追いつめるようなスキンケアは決して女性を美しくしないと思います。一歩も二歩も引いた目線で自分を見つめ、もっと穏やかにもっと大らかに、美容している女性のほうがきっと輝きを放つはず。みずみずしさや血色、艶やハリは、シワや毛穴を簡単に消してしまうもの。そんな健やかで幸せな表情こそが、空気の中で際立つのだから。

女を女にするときめき

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知り合いの女性が緊急手術のために急遽入院をしたとメールをくれました。大したことはないから心配は要らないこと。手術は無事成功してようやく明日退院すること。ただ1週間程度自宅療養の必要があること。落ち着いたらぜひ会いたいこと。そして……。

「あまりに緊急だったために、着替えも化粧品も持ち合わせていませんでした。入院5日目、鏡の前で呆然。肌はくすみっぱなし、髪はぱさぱさ、ぼさぼさ。体の皮膚も、まったくハリがなくて。『素の自分』を見せつけられて、愕然としたんです。その落ち込みようったら……。毎日きちんと気を遣う、手をかけることが大事なのだと、改めて自覚しました。お恥ずかしい話ですね」。

歯を磨けないより顔を洗えないより「美容できない」ことが辛かったのだと彼女は言いました。いたわるように肌に触れたり、わくわくしながら口紅を塗ったりすることが、自分をどれだけ支えてくれているかを思い知ったのだ、と。

仕事柄、ことあるごとに美容の力を再認識します。ヘアサロンに行った帰りだけは、顔の角度が上向きになるよねと大いに盛り上がったのは一度や二度じゃないし、どんなに話しかけても無表情だった病を患う女性が口紅をひと塗りしただけで笑顔になったと涙ながらに話してくれた人もいました。

そのたび思うのです。スキンケアもメイクアップも、ボディケアもヘアケアも、本来、女性に生まれた喜びを目覚めさせるとてつもない力を持つもの。義務にしない、惰性にもしない、ときめきながら美容に向き合うだけで、美しさが蓄積されていくのだと……。

女は生まれながらにして、女!?

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ある夏の夕方、近所のショッピングモールでこぢんまりとしたお祭りが催されていて、所狭しと並ぶ出店の中に、なんと子ども専用の「ネイルサロン」を発見しました。

浴衣を着た幼い女の子たちが母親に手を引かれ、順番待ち。へーっ、こんなお店があるんだ。気付かないうちに時代も変わったものと感心しつつ、可愛らしい光景に心惹かれ、しばらくその様子を観察しました。

3~4歳くらいの女の子が椅子にちょこんと座り、おとなしく小さな手を差し出して、されるがままになってる。自分の手元をうっとりと見つめているそれは、紛れもなく「女の顔」。爪が鮮やかな色に染まっていくとともに、次第に心もうきうきするためか、頬までピンクに染まっていくよう。

女は生まれながらにして女なのだと、再認識しました。お店をあとにする彼女たちは、口角がきゅっと上がり、背筋がぴんと伸び、それまでよりも少しだけ大人びて見えたのです。

これが美容の力、これがメイクの力。「女スイッチ」をオンにする、不可欠なもの。あのうっとり顔を見て、改めてそう思いました。

手がコンプレックスで、たいていの場合「素爪」で過ごしている私が、つねに爪が割れたり欠けたりしているのはそのせいなのじゃないか、と思い始めました。爪をないがしろにする、手の動きも粗雑になる、あちこちぶつけても平気……。だからもっと、手がコンプレックスになる。そんな負のスパイラルに陥っているのではないか、と。

そういえば、ごくたまにネイルサロンに行って美しく整えてもらうと、爪にも意識が宿るのか、こんな私でも自ずと、いつもより少しだけ仕草が優雅になる。大人になるほど、この力に頼らなくちゃいけない。たかが爪、されど爪……。無意識を繰り返すか、意識を重ねるかで、仕草も表情も姿勢も変わるってこと、肝に銘じたいと思います。


結局(けっきょく、丁寧(ていねい)な暮(く)らしが美人(びじん)をつくる。 今日も「綺麗(きれい)」を、ひとつ。

結局(けっきょく、丁寧(ていねい)な暮(く)らしが美人(びじん)をつくる。今日も「綺麗(きれい)」を、ひとつ。

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松本千登世『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる』