VOCE’s BOOK 話題の著者に訊く

小説『アスク・ミー・ホワイ』が話題の社会学者・古市憲寿さんに「閉塞感」について聞きました。

2020.10.17

激変する社会情勢、制限の多い生活による閉塞感……。そんな不安とフラストレーションが募る中で温かい気持ちになるには?

激変する社会情勢、制限の多い生活による閉塞感……。そんな不安とフラストレーションが募る中で温かい気持ちになるには?

古市憲寿さん
古市憲寿さん/NORITOSHI FURUICHI

1985年生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を描いた『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。初めての小説『平成くん、さようなら』、『百の夜は跳ねて』は芥川賞候補に。

閉塞感でいっぱいです!

解釈ひとつ、心持ちひとつで世界は大きく変わるもの

若手の社会学者で小説家でもある、古市憲寿さんの新作『アスク・ミー・ホワイ』。主人公は、スキャンダルを起こし、日本の芸能界を引退して海外に渡ったゲイの「港くん」と、アムステルダムの狭いシェアハウスの1室で暮らしながら日本料理屋で働くヤマト。世間から姿を消していた港と、ヤマトを結んだのはインスタグラムだった。

「アムステルダムって新しいものを生み出す活気に満ちた面白い街で、これまで何度も足を運んでいます。この小説は書き上げたのが海外に行けない、人に会いにくい時期だったので、街並みは実際よりヴィヴィッドになりましたね。あと、自分で思ってた以上に優しい明るい話になったかな。物語には、物語でしか伝えられないことがあると思っています。なにより、解釈ひとつで世界は大きく変わるということ、理想や正解はだれかが言い出したことで、自分の幸せは自分で決めていく……そんなことに気づける物語になっていたら嬉しいです。現実社会がコロナですから、夢のある設定にしたかったのはもちろんありますが(笑)。変えられないと思いこんでいたものが、実は変えられる可能性が十分にあって、実際に少しずつ変わっていく過程を人生でも味わってほしい」。

日本で大人気アイドルだった「港くん」は、薬物使用を親友によって暴露され、セクシャリティの事情も相まって芸能界に嫌気がさしたという、なんともリアリティのある設定。ヤマトは海外志向の強い彼女と共に、アムステルダムに来たもののあっさりフラれて夢を描けない毎日。そんな二人が出会って、セクシャリティを超えて惹かれ合う展開は、まるで雪が解けていくように、自然な優しさであふれている。変えられないと思っている社会の属性や常識も、変えられる可能性に満ちているとわかるたくさんの瞬間が、きらめきのように描かれていて、読んでいて心が温かくなる。

二人の行く末はまさにこれから、という可能性とあやふやさに満ちた中でのエンディングだが、確かなのはお互いに出会えたことを深く感謝し合っていること。出会いにおいて、これ以上のことはないのでは?

『アスク・ミー・ホワイ』古市憲寿

『アスク・ミー・ホワイ』
古市憲寿
¥1400/マガジンハウス

主人公・ヤマトはオランダに移住して3年。日本から一緒に来た彼女とも別れて孤独に暮らす日々に、突然、人気俳優だった「港くん」が加わって……。雲田はるこさんの雰囲気たっぷりの装画も話題。

撮影/神藤剛 構成/藤本容子

Edited by 大森 葉子

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