
何かとしんみり考えさせられる……。そんな深い恋愛作品が増えている中で、勘違いあり、すれ違いあり、でも胸キュンもしっかりあり!と、王道のラブコメ要素が全部詰め込まれている楽しい一作が、『ハマる男に蹴りたい女』です。現在、藤ヶ谷太輔さん主演で、実写ドラマが好評放送中。「めちゃめちゃ面白い!」「先が読めない」と、ドラマと合わせてハマる人が続出中のそのワケを探ります!
『ハマる男に蹴りたい女』
著:天沢アキ

エリートサラリーマンから下宿の管理人に。そこで出会ったのは……。
31歳の設楽紘一はビール会社のエリート社員。いわゆるデキる男だったのに、デキ過ぎたことが仇となってリストラに。さらに同じ日、妻にも離婚届を突きつけられてしまいます。仕事と家庭を一気に失った紘一は、知り合いの紹介でなぜか住み込みの下宿管理人をすることに。しかしある勘違いから、下宿人の一人・西島いつかと最悪のスタートを切るハメに……。

実は2人の間には、浅からぬ因縁がありました。かつていつかは、仕事で出会った紘一に、自分の甘さを一刀両断されたことがあったのです。ぐうの音も出なかったいつかは、その悔しさをバネに、今や“デキる女”へと変貌していたのでした。

しかしそんなことはまったく覚えていない紘一に、いつかはイライラ。なのに、なぜか「押し倒したい」という欲求が沸き上がってきて……! そして、次第にいつかを女性として意識し始めた紘一。素直じゃない2人の恋は、一体どこへ向かうのか!?

嫌いだけど押し倒したい……、腹立つけどホッとする……。
この作品の面白さは、何といってもその展開の読めなさぶりにあります。というのも、主役の2人はどちらも相反する気持ちを抱えているから。いつかは、紘一の過去の仕打ちを根に持っているのになぜか押し倒したくなる。一方の紘一は、いつかを感じ悪い女だと思っているのに同時にホッとするものを感じてしまう。

さらに漫画は、いつかの同期・香取に対する複雑な気持ちも描いています。それは、優しくて仕事もデキて完璧な彼氏候補だと痛いほど分かっているのになぜかそういう気持ちになれない、というもの……。

でもこれって、おそらく多くの人が経験している葛藤ではないでしょうか。選ぶべきは本能のままに押し倒したい相手か、それともそれなりに好きだけど押し倒したくはならない相手か……。自分ならどっちを選ぶか。そんなことを考えてしまい、気づけばすっかり2人の恋模様に惹き込まれているはず。
ファンタジーとリアリティのバランスが絶妙
もう一つ、不思議といつかや紘一の気持ちに現実的なシンパシーを覚えてしまう理由があります。それは、起こる出来事はファンタジーでも、登場人物たちの心情はとってもリアルだから。
仕事が大好きで、仕事にのめり込んでいられたら満足、というのがいつかの本音。そこに恋やパートナーは必要なのか? そう考えると、「ただ押し倒したいだけ」という気持ちも、一気にリアルなものとして感じられるようになってきます。

一方、仕事での成功が人生の成功、と思っていた紘一の心理も多いに理解できるものがあります。その彼が、人の気配を感じる生活に妙に安心感を覚えてしまう。そのくだりは、現代に生きる人たちが大なり小なり抱えている孤独をリアルに表していて、「うっ」と胸に刺さるものがあるはず。

ファンタジーでありながらも、適度なリアリティがある。このバランスの絶妙さが、作品にハマる人を続出させている最大の理由かも。共感しながらも、楽しく胸キュンもさせてくれる気軽なラブコメ。頑張り過ぎてほんのちょっと心が疲れている人たちに、最適な一作です!
実写ドラマはテレビ朝日系「オシドラサタデー」枠にて毎週土曜よる11時放送中!
【キャスト】
藤ヶ谷太輔・関水渚・京本大我・久保田紗友・西垣匠・サーヤ(ラランド)・田渕章裕(インディアンス)・金子隼也/西田尚美・大地真央
取材・文/山本奈緒子
Edited by 金森 紗瑛
公開日:2023.03.15