連載 齋藤薫の美容自身stage2

嗅覚VS味覚――最後に勝つのは、味覚な女

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

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近頃、“味覚”のない人が増えつつあるのだという。いっとき、“激辛もの”が流行ったが、たとえば激辛ジャンクフードなどをボリボリ食べつづけると、刺激された味覚を、次に逆の刺激で中和するために、チョコレートなんかをむさぼり食べちゃったりする経験があるはずだ。そんなふうに辛いものと甘いものばっかり食べてると、味覚はマヒしていくものらしい。過激で安易な食生活時代のひずみ、これが味覚消失を招くのだ。

しかし一方、“嗅覚”がマヒしている人もけっこう多い。同じ香水は3日つけると自分には匂わなくなって、以後知らないうちに量が増え、さらに鼻がマヒしやすくなるとはよく言われること。日本人は嗅覚が敏感だとされるのも、欧米のような香水文化がなかったせいだろう。そして、化粧品を顔につけつづけていない分、男のほうが嗅覚は敏感なんだそうである。

さて私は、“カラムーチョ”と“絹練りチョコ”と“イン ラブ アゲイン”と“ブルガリ プール オム”が大好きなので、たぶん味覚も嗅覚も、かなりマヒしているはずで、まあどちらも大事だが、ふと“マヒしたらどっちが困るか?”なんてバカなことを考えた。舌と鼻は、すぐ近くにあって、味覚と嗅覚は影響しあっているものの、やっぱり別もの。味覚人間と嗅覚人間はどっちが幸せ?なんて考えてみたのである。

じつは味覚が鈍った人は、すぐにイラつくようになるらしい。味覚で感じる“辛い”“甘い”“しょっぱい”“苦い”。これらをひと通り感じることにより、人は精神的なバランスをも保っている。そう言えば、毎日同じ味のものばかり食べていると、何となくストレスがたまってくる。ふつうそれは、変わりばえのしない食卓にうんざりし、暮らし方の貧しさを情けなく思うからだと思いがち。もちろんそれもあるけれど、いろんな味をバランスよく取らないと、それだけで人間は心も失うのだ。味覚の衰えが人をトゲトゲさせるなら、女はこれをぜったい避けないといけない。

逆に嗅覚があまり研ぎすまされて、不幸になった人の話をしよう。ストレスのために会社に行けなくなった若い女性。原因を突きとめたら、通勤及び会社で自分を取り囲んでいる、いろんなオジサンのいろんな匂いにやられたのだった。マヒした嗅覚で香りをつけすぎて、他人に迷惑をかけるのもこわいけど、否応なしに匂ってくる世の中の匂いに神経をすり減らしてしまうのも悲劇。人口密度の異様に高い、人間関係の異様に混み入った日本の都会では、ほどほどの嗅覚をもって、好きな香水を少々ゴージャスにつけていられるほうが幸せなのかもしれない。

最近妙に、“食事が美味しい幸せ”を訴える人が増えだした。恋愛も友情も夫婦愛も親子愛も、みんなみんな“美味しい食事”を軸にしてる。人間の味覚に危機がせまったからでなく、人が幸せになる上で味覚ほど大事なものなしと、みんなが気づき始めたせいだと思う。

五感のすべてがマヒしがち。そんな人が今、増えている

鍛えなければ、しだいにマヒしてしまうのが、人の五感。ヒーリングコスメにヒーリング音楽と、感じようとしなくても、感じさせてくれるものが増えたから?いいえ、事態はもう少し深刻。現代の環境は“酸化”ばかりでなく、五感のマヒの原因になりつつある。だから五感は味と音の環境悪化に、どっぷりつからせないようにすることが、じつはとても大事なのである。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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