
人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。
さて、不倫はもちろん、少々人目をはばかる恋愛や、まだ発覚していない“社内恋愛”は、携帯電話の普及とともにその数を増やし、また“連絡がつかないストレス”も減っていると言っていい。
書類の間に『今夜7時に、例のところで』とかいうメモ紙を忍ばせて「これお願い」と顔をこわばらせながら渡すなんていうシーンは、二流のドラマにももう出てきやしないし、オフィス1階の公衆電話で、制服を着たOLが、他人を装って社内の彼にビビリながら電話をしている姿なども、もうあまり見かけなくなった。ただ、やりやすくなった一方で、別の社内恋愛ストレスが増えているとも聞く。
ケータイやEメールのおかげで、同僚にまったくバレることなく、社内愛をはぐくんでいる女性がいた。しかし、社内に“あの二人、ちょっと怪しい”なんていう噂すら出ないと、聞きたくもない“彼の評判”が、ダイレクトに耳に入ってきて、逆にとっても辛いと彼女は言った。
おそらくこれも、不況のせい。景気が良かった時代は、多少仕事ができなくても「いいひと」ですんでた人が、リストラが囁かれるような企業では、「要らないのはアイツ」などと、遠くの部署まで“ダメな仕事ぶり”が誇張されて伝わっていく。しかも今は、往々にして、男よりも女のほうが“よく働くし、かえって優秀”なんて言われちゃう時代。目下、社内恋愛における最大のストレスは、そうした男と女のレベルが微妙にズレてしまうところにあるらしいのだ。
そもそも社内恋愛は、女にとって良いことずくめ。苦痛な通勤も楽しくなるし、嫌いな会社も好きになる。デートの会話の半分は会社の人の話になったりするもの。自分にとっては“苦手な同僚”も彼が「けっこういい奴」と言えば、そんな気がしてくるし、今日あった“ムカつくこと”も他人事でなく受けとめてくれる彼がいるだけで、心が晴れるってもの。ましてや、他の同僚OLよりもやっぱり“いいとこ”見せたいから、気配り面ではいやでも優秀になっていくし、新入社員が入ってくる季節ともなれば、彼の目がキョロキョロしないように、気を引き締めて品のいい清潔な美しさなどを心がけ直してみたりする。どっちにしても、彼の目には“○○企業のNo.1 OL”でいなければならないプレッシャーが、必ず女を大きく育てるのである。
だから問題は、仕事における男女の能力差のみ。とは言え、これは社内恋愛において相当に深刻な問題。「彼のどこに惹かれたの?」と聞かれれば、「日頃の責任感ある仕事ぶり」と答えるのが理想だったが、今は少し言いにくい。“知らぬが仏”と言われるよりはマシだけど、彼の仕事ぶりを堂々と誇れないのはやはり由々しきことである。
“仕事のできるいい女”がますます結婚しない、できない理由は、“社内恋愛”のこうした歪みが根っこにあるのだ。昔は、入社3ヵ月で彼ができなければ社内結婚をあきらめよと言われたが、今は入社3ヵ月で男に失望するという。でも先の女性はこう言った。「評判の良くない彼の評判を良くする喜びは、なかなかのもの」社内恋愛ストレスの形もずいぶん様変わりしたが、連絡がつかないストレスよりは、ずっと建設的ではあると思うけど。
社内情報がコワくなる、それが社内恋愛ストレス
「○○課の○○さん、いわゆる煮ても焼いても喰えないヤツらしいわよ」その○○さんとあなたがつき合っていたとしたらどうだろう。社外恋愛だったら、そのままゴールイン。でも火のないところに煙はたたぬ・・・・・・ああ、社内恋愛はそこが辛い。社内情報にうとくなるしか、救いの道はないのである。
Edited by 齋藤 薫
公開日:2015.04.23