連載 齋藤薫の美容自身stage2

殺人鬼に惹かれる女たち~おぞましさの、知られざる効用を考える~

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

各局の9時台10時台のテレビドラマは、その時代の“ひとり暮らしの女性が見たいもの”がひと目でわかると言うが、今それは“こわい話”や“殺人鬼”。犯罪史に残る殺人鬼の記録を一冊にまとめた“マーダー・ケースブック”というシリーズが20代女性によく売れ、“殺人鬼の実話もの”を読みあさる女性が増えている事実は、無気味な社会現象となっていた。

なぜ彼女たちは“殺人鬼”に心惹かれるのか。もちろん、本人たちは心惹かれてるなんて思っちゃいない。最初は単なる“コワイもの見たさ”。やがて、どぎつい刺激がクセになり、もっともっと見たくなる。フィクションではダメ、実在の人物でなければダメで、それが凶悪かつ猟奇的であるほど燃える。そうした暗黒のレクリエーションにハマった女性は、殺人鬼を“許せない!”と憎む正義感などなく、むしろ彼らを無意識に理解しようとしている。それがなぜ若い女性なのか?なぜ日頃はいかにも常識的な女性たちなのか?

今、いわゆる人間嫌いの女性が増えているとも言う。人づき合いはさほど悪くないし、恋もしたいと思っている。でも、基本的に自分以外の人があまり好きでなく、だから、友だちにも恋愛にものめりこめない。こういうタイプは、人を見ると“どこが好きか”ではなく“どこが嫌いか”をまずさがすから、腹がたつことがとても多く、何だかいつも人に腹をたてている。でも常識はあるから表に出さない。出さないから、怒りはますますたまっていく。じつはそうした“人間嫌いの常識人間”ほど殺人鬼ものにハマるという話を聞いたのだ。おそらくは、人に対する怒りの蓄積を、殺人鬼が次々に犯していく殺人で、ひとつひとつ抹消するという、カタルシスの連続が、彼女たちを虜にしているのではないか。

今、女性たちは人には言えない思いもよらないストレスに苛まれている。ストレスの原因を“疲れ”とか“生活の変化”とか、世間は生ぬるいことを言っているが、じつはそんなものじゃない。今の女性には、“殺人鬼もの”を聖書代わりにしなきゃならないストレスもたまるわけで、雑誌で見たストレス解消法ではもう癒されない。殺人鬼に救われるなんて皮肉だが、逆に“コワイもの見たさ”じゃなく、それで自らの心を諌められるなら、過激だがそれもひとつの美容。事実はまさに小説より奇なりである。

もっとシビアに見つめなきゃいけないストレスの行方

時にはコンサートに行きましょうとか時にはお買いものを思う存分とか、ましてやヒーリングコスメでリラクゼーションなんて提案ではもうすまされないほど、女たちのストレスは重たくなっている。でもまずはそれを自覚すること。“殺人鬼もの”が好きな人は、なかなか対応が早い人?

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

Serial Stories

連載・シリーズ