連載 齋藤薫の美容自身stage2

漢字職業の人生~生涯かけてなりきり派~

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

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写真を撮る人も、なりたての頃は“カメラマン”を名のるのがうれしいが、やがて立派な写真を撮るようになると“フォトグラファー”という方がハマってきて、もっと巨匠になると“写真家”になる。単純に、カタカナの方が軽い。良くも悪くも変わっていく可能性を秘めている。でも、漢字を名乗った時点で、その職業はどっしり重い“一生もの”になっていくようなところってあると思う。だいたいが、教師とか看護婦とか保母とか栄養士とか、資格が必要な職業の多く、まだ漢字。なるのも、続けるのも大変そう。だからかもしれないが、漢字職業の人気は確実に落ちている。このまま行くと、社会においてぜったい必要な仕事ほど、人手不足になるだろう。

「でも、教師って仕事の中でいちばんすばらしいよね。自分のお葬式に来てくれる人がいちばん多いのは、何たって教師でしょ」そう言った人がいた。なるほど、そうかもしれない。漢字職業は重たく責任がある分、そして社会が強く必要とする分、人と深く関わり、感謝されたりもする。もちろん一概には言えないが、カタカナ職業がどちらかと言うと“自分自身が大きくなるため”のものなら、漢字職業は“こつこつと自分の使命を果たすため”のもの。確かに、一発当てたりもしないし、医者や弁護士、代議士など、特定の漢字職業を除けば、大してもうかったりもしない。

でも、“自分のため”より“人のため”っぽい使命感をもてる仕事は、時々ワーいい仕事だなと思う日もあるだろうし、何よりあとで大きなお返しがあると思う。少なくとも今、カタカナ職業が世間をにぎわせている時代だが、だからこそこつこつと自分の役割を果たす“漢字職業”の女性が、ピカッと光ったりするのだろうと思う。

こんな話を聞いたことがある。軽いアンケートなどの職業欄に“OL”ではなく、“会社員”でもなく、“事務員”と書く女性がいた。ワー事務員ってどうなんだろう・・・・・・と、その古めかしく野暮ったく地味な響きに、周囲のOLたちは、平気でそう書く女性をバカにした。でも、何年後かにその女性だけに役職がついて、今は部下8名を抱える課長職。

別に呼び方なんてどうでもいい。でも今の時代にあえて“事務員”と書く女性は、「私は事務だけをしっかりこなすプロ」という自覚が人より強く、そして実際に完璧に事務のすべてをこなしたのだろう。昔ながらの漢字には、そうした使命感を呼び起こす力が、長い間に宿っていったに違いない。

大昔、“BG”という言葉があったのを知っているだろうか? BG=ビジネスガールの略である。OL=オフィスレディに比べるともっと仕事をやってそう。当時は言葉が先走ったし、ガールはいただけないが、今こそBG意識が必要なのかもしれない。そして、自分の仕事がまだ、ビジネス以前の“事務”に徹すべき時期にあるならば、言葉にしないまでも、“事務員”という自覚をもつ勇気と気合も必要なのかもしれない。そうこうするうちに、自然に力が貯えられてきて、いつの間にかOLとしてはくくられない、管理職という“漢字職業”に押し上げられたりするもの。

さあ、あなたは“当てるカタカナ”か、“貯える漢字”か、どちらの職業を選ぶのだろう。

そのうちきっと来る漢字職業ステイタス時代

職業さえも、流行りすたりのある日本。ここまでカタカナ職業がぞこぞこ出現したら、やがてカタカナがダサくなる日はきっと来る。そうなった日のために、今から地道にやっとく手もあり。図書館司書なんか、“字づら”的にも何か素敵……。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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