
人気連載「齋藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。
昔、家のそばにシンデレラが住んでいた。時々見かけるその人は、めったにいないくらいのキラキラした美女で、いつもあたりが暗くなってから出かけていくものだから、私は勝手に“シンデレラ”と名づけていたのだ。
私が大学生になった頃、すれ違った女性の姿にエッと思う。スッピンのクマなどもある疲れた肌、いかにも傷んだ赤茶けた髪、首がのびたTシャツに、ヨレッとした短パン、サンダルばき……もちろんそんな詳しく覚えてはいないが、言うならばそれくらいみずぼらし気な服装だったという印象が強烈に残ってる。でも、どこかで見た顔……。そう、それはあのシンデレラの昼間の姿だったのだ。おそらく今までも昼間の顔をよく見ていたのだろう。でもまったく覚えていないほど印象がうすく、ましてやその変わり果てた姿が、きらめく美女と同一人物であるなど誰が見抜けよう。突然それに気づいてしまったのは、たぶん私が化粧を本気で始めたからなのだった。“あの目”が“この目”?でも化粧のからくりを多少とも知った女には、その変貌ぶりもありえなくはないと思えた。
そして、シンデレラは毎夜毎夜、“お城”ではなく“夜のお仕事”に出かけてるから、昼間は魔法がかかるまで“別人”なのだと理解した。しかしこの時私は、“女の気合”はシンデレラの魔法よりもスゴイと感動した。“変身”なんて生やさしいものじゃない、肌も髪も顔だちもプロポーションさえ別のもの。つまり人はここまで変われるのだという物的証拠に、興奮すら覚えたのだった。
さあ、あなたは日々どこまで自分を変えてるだろう。近所の女の子が“お出かけ着のあなた”と“ふだん着のあなた”を別ものだと思うだろうか。何もお化けのように化けようというのではない。ただ、その気になればみんな毎日シンデレラになれるのに、結局は“ボロを着てメソメソしてるシンデレラ”のまま家を出ていく日々をここで見直してみてもいいんじゃないかと思うのだ。昔のご近所のシンデレラは、今思えば異様に化粧がうまく、厚塗りには見えないのに、葉月里緒菜みたいな二重の目をしてた。でもスッピンは一重のこわい目であった。靴を忘れてきても誰も現住所をさがせない。化粧は本来そこまでの力をもつのである。
自分もシンデレラになれること、それを知ると人生は変わる
美容でいちばん大切なことは、自分がギリギリまでキレイになったら、一体どこまで行けるのかを、たった一度でいいから、自分の目で確かめること。ある日突然キレイになってしまった人の“秘密”をさぐると、だいたいがたまたまギリギリまでキレイになった自分を見てしまったことにある。だから一日も早くシンデレラしよう。
Edited by 齋藤 薫
公開日:2015.04.23