連載 齋藤薫の美容自身stage2

嫌いな同僚と仲良くする そのストレスがじつは女をぐんぐんキレイにするという話

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

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嫌いな人とも、ふつうに付き合える……それを世間では“オトナ”という。そして、相手を選べないオフィスでは、この“オトナ”スピリッツが、絶対不可欠となってくる。けれど、“オトナ”のストレスはかなりのもの。嫌いな同性とお茶を飲むのは、嫌いな男に言い寄られるよりも、じつはストレスがたまるのだとか。嫌っていることを、相手に悟られまいとするのは、顔の表情にまでブレーキをきかせなくてはならないからだろう。

あるOLは“みんなに嫌われている同僚”ともまともに会話ができる人というだけで、周囲に尊敬されていた。言ってみれば、それを支えに頑張ってきたわけだが、それでこの人と大ゲンカでもしたら、“やっぱりあの子もフツーの子”と言われかねない。そのプレッシャーで彼女はひどく疲れていたという。それでも彼女は、ハタ目にもめきめき美しくなっていった。なぜだろう。

その相手には申し訳ないが、“この人間違ってる”と思う相手と話をすると、自分のステージが一時的にでもぐんと上がるのがわかる。物事すべてに“清濁”があるとすれば、イヤな同僚は文句なく“濁”、対極にある自分は“清”そのものという実感がある。逃げ場のないオフィスでは“濁”に染まっちゃいけないという見えないブレーキを、就業時間中つねに感じているから、ますます“清”を増やしていく。気がつけば、どこへ出しても恥ずかしくない自分が出来上がっている。身も心も自然に磨かれてしまうのだ。ある人はこの現象を“脱皮”と呼んだ。

脱皮……さなぎが蝶になるように、カラを脱ぎ去ること。そう、彼女はたぶんごく普通の女。嫌いな人間と余裕でにこやかに話せるほど、本物の“オトナ”ではなかった。しかし、人は人への嫌悪を乗りこえることができる。ちょうど、嫌いな食べ物も努力で食べられるようになるように。ある壁を乗り越えると、好きにはなれなくとも、憎たらしくなくなるのだ。逆に自分を鍛えてくれてありがとうとまで思うようになる。そして、この時“脱皮”が起こる。普通の人間から“オトナ”への。

まれに自分が脱皮していくのを自覚していた人がいる。私の友人にもいて、嫌いな女によって自分が向上していくのがわかり、その時、胸がわくわくするような、心臓がほぐれていくような、脳がやわらかくなるような、そんな身体的な手応えがあったという。おそらくそれは、たいそうな自信につながるのだろう。どんなイヤなヤツとも仲良くできる、コドモの大人から見ればそれは大変な才能。どこへ持って行っても恥ずかしくない自分の完成。それは必ず人を輝かせる。脱皮を自覚した友人も、こちらの見る目が変わったせいなのか、妙にキレイになったのが印象的だった。

一度も就職せずに結婚した女性は「働いている女の人がコワくて仕方がない」と言った。社長秘書で同性の同僚がいない女性は、「人づき合いがヘタになるばかり」と言った。たぶん人は人生の早い時期に一度、イヤなヤツや嫌いな同僚がいる会社に入っておく必要があるのだと思う。そこで自分を試してみる。できれば鍛えてみる。それでストレスをためながらも、1年、いや半年逃げ出さなければ、オトナの完成だ。人は人によってしか育たない。みんな仲良し、みんな大好きなオフィスにいたのではなかなか育たない“清”の自分がどんどん育っていくはずなのだ。厳しくて理不尽な先輩がいればもっといい。「こうはなるまい」と思うことそのものが、美容だからだ。

“オフィスに耐えがたい存在がいる”という人がいたら聞いてほしい。その人と毎日顔をつき合わせられるあなたは、きっと日々立派になっていく。仲良くできないまでも、放っておけるまでになった時、身も心も美しい、“オトナ”の完成だ。

雰囲気の悪いオフィスの方が美人が多いという奇々怪々

紅一点、男性社員に日々チヤホヤされているようなOLは、たぶん女としての成長はあまりない。何をすればもてるのか?という自問自答を一切しなくなった女には、本物の色気や深みといったものがやっぱりどうしても育たない。競う相手がゼロの清々しさは、女を素直にする一方で、女を鈍感にマヒさせる。

もちろん今は、OLがオフィスで美貌を競ってる場合じゃない時代。しかし女を育てるのは女。女がいっぱいいて、ものの道理として、キレイな女性が目立ってしまうエリアの中では、女も自然と切磋琢磨し、伸びていくものなのだ。一触即発、みんながトゲトゲしていて、毎日誰かしらが泣いちゃうようなオフィスでは、それこそ恐怖と保身に神経をすり減らし、キレイになってるヒマなどない。が、あっけらかんと明るいトラブルゼロのオフィスよりかは、何やら不穏な空気が流れる日もある、ちょっと危なげなオフィスの方が、明らかに美人が多いはずなのだ。

表面には出てこなくても「なにくそ」みたいな思いが誰かにある。絶対ほめてはあげないけど、「あの子の今日の格好、かわいいじゃん」みたいな吹き出しが毎日どこかで上がってる。そういうオフィスこそ、じつは女が磨かれる。ほぼ一日を過ごすオフィス。生ぬるいオフィスより日々少ししんどいくらいの方が、人生長い目で見れば有益だ。今は辛くても辛さから抜け出た時に、きっとキレイになってるもの。それを肝に銘じて今日も元気に出勤しよう。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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