連載 齋藤薫の美容自身stage2

最終的な男女の仲は“ひと事”で決まる

公開日:2015.04.23

人気連載「齋藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

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世の恋人たち、または夫婦の間で、長くなるほどにかわされなくなる言葉、何だかわかるだろうか?よく言われるように「好き」とか「愛してる」という言葉は、確かに最初だけ。言わなくなって2年たつと、もう一生言えなくなってしまう言葉といっていい。

ただこれは、もちろん言った方がいいに決まっているが、無理やり言ったり言わせたりしたところで、じつは二人の関係はそう大きくは変わらない。むしろ、男女の仲を、知らず知らず変えてしまう言葉は他にある。しかも長くなるほど、たちまちかわされなくなる重要な言葉。それは「ありがとう」と「ごめんね」……。

もちろん世の中広いから、関係が深まるほどに「ありがとう」「ごめんね」をいっぱいいっぱい言い合う、ほのぼのとした男女関係はたくさん存在するのだろう。でもやたらに「ありがとう」を言い合っている夫婦に、何かワザとらしさを感じてしまうほど、夫婦というものは「ありがとう」を言わない間柄となりがちなのかもしれない。

逆を言えば、男と女というものは、お互いが非常に深い、揺るぎない関係であることをお互い確かめ合うためにこそ、荷物をもってもらっても、ネクタイを直してもらっても、「ありがとう」をワザと言わない。言わないのが何だか妙にうれしい時期ってあるのだ。ところが、そのうれしい時期を越えても言わない。そのうち言うのが恥ずかしくなってしまう。そして恥ずかしい時期を越えると、その言葉自体を忘れていく。忘れたら一生戻ってこない言葉なのである。

でも、こんな主婦がいた。結婚5年目で、夫に不満をもち始め、初めての浮気。何年ぶりかに言われた「愛してるよ」に心をときめかせ、夫との離婚も考えるほど、浮気相手にハマっていく。気がつけば、彼の家でまるで奥さんのようにふるまうことが多くなっていた。でも、夫婦みたいな時間を過ごすうちに、彼女はその生活にちょっとした違和感を感じるようになる。初めのうちはそれが何なのか、わからなかった。でも家で夫と食事をしていて、それに気づくのだ。夫のごはんをよそってお茶ワンを夫に手渡すとき「ありがとう」と夫が言った。今まで当たり前になりすぎて聞こえなくなっていた「ありがとう」。そういえば、くつ下を出してあげても「お風呂わいたよ」と言うだけでも、夫は「ありがとう」を言う人。

つまり浮気している彼は「ありがとう」をたちまち言わなくなったから、夫の「ありがとう」がいやに胸に響いたのだった。関係が深まってすぐ「ありがとう」を言わなくなるのは、“夫婦の真似ごと”がうれしかったからかもしれない。でもこの恋人はたぶんもう一生言わないだろう。彼女は、いつの間にか夫のもとへ帰る決心をしていた。夫の「ありがとう」が妙に温かく、やさしく思えて、もう一度やり直してみようと思うのである。そんな単純なもの? と言うかもしれない。でも、ごはんをよそうたびに聞こえてくる「ありがとう」は、気づかなかった幸せの象徴にも思えて、彼女は浮気を心から恥じたのだという。

それからの彼女は、自らも「ありがとう」を頻繁に、意識して言うようになった。妻は、ふだん「ありがとう」を言わない分、お誕生日や結婚記念日に何かプレゼントされた時、とても大げさに「ありがとう」を言ってみたりする。それも、ふだん言わない後ろめたさがさせること。でも、そういう「ありがとう」ではなく、ふだんから日常のひとコマひとコマでお互いがしみじみするような「ありがとう」を言ってみようと思いたつのだ。するとどうだろう。気のせいかもしれないが、夫もハッとするほどやさしくなった。笑顔のことが多くなった。

一生一緒に生きていく人、生きていくかもしれない人にこそ、本当は「ありがとう」をいちばん多く言うべきなのかもしれない。いや、日々の暮らしで「ありがとう」をいっぱい言えること自体が、女の幸せなのかもしれない。「ありがとう」を言うほどに、男はもっと何かしてあげようと思ってくれる。だからまず、自分から「ありがとう」を言ってみよう。浮気している夫も、妻の「ありがとう」が胸に響いて、自分のところに帰ってくるかもしれないし。

「ありがとう」よりもっと言えない「ごめんなさい」の効きめ

付きあい始めの頃は、「ごめんなさい」なんて、いつでもどこでもいくらでも言えた。でも痴話ゲンカみたいなものが増えていくにつれ、男も女も「ごめんね」をそう簡単には言わなくなる。ケンカ両成敗、悪いのはお互いさま、自分に悪態つかせたのはそっちでしょとばかりに、一方的に折れることは損と思い始めるのだ。

そして、「ごめんなさい」という言葉自体に変なこだわりをもってしまうから、日常の何でもない場面でも、自分のミスであるのが明らかなことにも、「ごめんなさい」が素直に口をついて出てこない。夫の大切にしている置きものを割っちゃっても、「ごめんなさい」を言う前に、「だって手がすべっちゃったんだもん」と言い訳が出てきてしまう。しかしそういうものだけに、妻の「ごめんなさい」は、夫にとってひどく可愛い音に響くらしい。「ありがとう」は温かく響くが、「ごめんなさい」は可愛く響く。そういう響きを使わない手はない。

ひとつ屋根の下、家の中で体がぶつかり合うような時ですら、「ごめんね」を言う。それだけで妻はたちまち可愛い存在に変わるのだから。それに人は、無理やりにでも「ごめんなさい」と言ったとたん、“自分から謝るなんて悔しい”と思っていた心が、すうっと素直になるらしい。「ごめんなさい」は男女間に限らず、自分のためにこそ言う。自分が清々しくなるために。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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