連載 齋藤薫の美容自身stage2

許せること、許せないこと

公開日:2015.04.23

人気連載「齋藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

人気連載「齋藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

寝入りばなをイタズラ電話でくじかれ、早朝イタズラメールに起こされる。朝食、いただきもののハムを食べようと思ったら、それが雪印のハムで、突然食欲を失い、外へ出れば歩道の真ん中をスピードあげて走る自転車にチンチン鳴らされ、端っこに追いやられる。タクシーに乗れば運転手さんが何を言っても返事をしない、降りる時もひと事もない。電車に乗れば、足を踏んだ女性も「ごめんなさい」と言わない。混んできたら痴漢なのかどうなのか、中途半端でよくわからない触り方をするまじめそうなサラリーマンがいる。シルバーシートで寝たふりする若い子がいる。自分の前の席が空いたのに、ななめ横から倒れこむように座ってしまうオバサンがいる、朝からイチャつくカップルがいる。ケータイをピコピコさせるイイ歳した男がいる。ワケもなく睨む女がいる。そして、ようやくたどりついたオフィスでも、同僚の「おはよう」がない、笑顔がない……時計を見ればまだ朝の9時半。なのに、許せないことの山。

いや、特に最近、“許せないこと”が増えた気がする。それはニュースの中の出来事も同じで、かつてそんなことはなかったが、最近はニュースを見ている途中で、あまりに辛くなってチャンネルを変えてしまうことがある。事実をありのままに伝えるニュースが、どうしてこんなに辛いのだろうと思うことがある、最近の犯罪は、見るに耐えない、聞くに耐えない、まさに胸をえぐられるレベルのものがとても多くなった。無差別殺人、幼児虐待……ここにあげようとするだけで胸がムカムカしてくるのでやめておこう。日本はナマナマしい現場を決して報道しないが、それでも目を覆いたくなるほどの犯罪が多いって、どういうことなのだろう。許せる犯罪などあるわけないが、それでも許せることと許せないことが世の中にあるなら、最近は“許せないこと”が多すぎる。なぜなんだろうと考えた。

たとえば、さっきの朝9時半の出勤までに体験してしまう“許せないこと”、もしこれをみんなが毎朝毎朝体験していたとしたらどうだろう。もちろん9時半以降も、許せないことは続く。家に帰ってベットに入り、本当にひとりの世界に入るまで続く。人と関わる限り“許せないこと”は起こりうるのだから。たぶん、人は“許せないこと”自体に疲れてくるだろう。その時どうするかは、人それぞれ、大きく分けて、3つの選択があると思う。

ひとつめは、“許せないこと”自体にマヒしていって、自分も同じことをやるようになる。ふたつめは、自分以外の人を一様に許せなくなる。3つめは、“罪を憎んで、人を憎まず”という境地に達する。

こういう世の中では、3つのうち自分がどっちの方向へ行こうとしているのかを、ハッキリ自覚しておいた方がいいかもしれない。人を作るのは、環境だから、“許せないこと”にまみれているうち、自分自身もそれに影響されて変わっていきかねないから、うっかり、まわりの人みんなを許せなくなったら大ごとだ。極端な話、犯罪レべルで“許せないこと”をやってしまう人間の中には、“自分以外の人をみんな許せなくなったタイプ”が多いはずだし。ここは、マヒせず、人を憎まず、罪だけをハッキリ憎みつづける人でありたい。

ただし、“許せないこと”が多すぎる人に聞いてほしい。実際、今の世の中、“許せないこと”は本当に多いけれど、“許せる許せない”はあくまで自分のものさしで測るもの。そのものさしが、そもそも自分勝手になっていないか、それを時々確かめてみることも必要なのだ。自分自身、時々思う。“許せないこと”がとっても多いとき、それは自分が身勝手になってるせいじゃないかと。すべてを自分の思い通りにしたい人間にとっては、他人のどんな行動も、自分の意に少しでも反していれば、“許せないこと”になる。「おなかすかない?」と聞いて「私はすかない」と言われれば、それだけで腹がたつように、日常の中に“許せないこと”はどんどん増えていく。

だからもうひとつ、今の時代にハッキリ分けておくべきは、それは“人間として許さないこと”や“マナー的に許せないこと”なのか、それとも“自分にとって許せないこと”か。いちいち考えてみよう。

“自分にとって許せないこと”が日常的にたくさんある人は、そのものさしから見直しすべきかもしれない。自分は正義感や常識があるから“許せないこと”が多いんじゃなく、身勝手だから、“許せないこと”が多いんじゃないかと。許さない人たちはそこのところ、よーく見極めたい。

お店のスタッフの態度が良くなっている理由

ウエイトレスが「いらっしゃいませ」もなく、水の入ったコップをドンと置き、水しぶきをあげた……みたいなことは、最近あんまりない。10年前はもっとあった。逆にカンジがいいだけで、感動しちゃったりしてたもの。ひとつにチェーン店が多くなり、接客マニュアルにのっとった“よい態度”が徹底しているためもあるだろうが、それでも感じるのは今、男性スタッフより女性スタッフの方が感じがいいこと。

おそらくは“キレイになりたい願望”の現れだろう。全国津々浦々、美容ブームが行き渡り、化粧品をいっぱい買って、一生懸命美容する女性は確実に増えたはず。かくしてせっかくカワイくなったのだから、もうちょっと笑ってみようかな、なんて思った女性は、たぶん10人に6人はいるはずなのだ。カンジ悪い女性も半分は本当に性格ブス、半分は自分に自信がないから、笑い方を知らない。愛想をふりまけないだけ。その人たちが愛想を覚えれば、日本中のサービスが良くなったように思えてもおかしくない。

それともうひとつ、本当にカンジ悪い店員がいることを“許さない人”が増えたこと。店長を呼んで「ああいう子使ってたら、もう来ないわよ」と言っちゃう客が確実に増えているんだとか。美容と“許せない店員を許さない人”が、日本のサービス改善に貢献。いいんじゃない?

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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