連載 齋藤薫の美容自身stage2

性格ブスはうつりやすい

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

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性格ブスは弱っている時に感染しやすい精神のインフルエンザ。

この冬、ウイルスの恐ろしさを私たちは再認識した。誰と抱き合うわけでもなく一日を過ごしたのに、家に帰ってくるとインフルエンザになっていて、あれ、一体誰からもらったんだろうと、通勤電車でそばにいた中年男から、ヒソヒソ話ばっかりしてくる噂好きの同僚の顔まで、自分に近づいた人の顔を一斉に思い出す。しかし犯人は不明。ウイルスは意外なほど遠くから飛んでくる。問題は浮遊するウイルスをキャッチしてしまう、自分自身の体力の低下・・・・・・。

性格ブスも、言ってみれば精神のインフルエンザ。会社で、飲み会で、人が集まるところでは、強力なウイルスとして人から人へ容赦なくうつっていく。ただ実際に発症するのは、やっぱり自分が知らず知らず弱っている時なのだ。人の悪口ばっかり言っているわりに、やたら人なつこいタイプっているものだが、仮にそれをA子としよう。そしてB子は、そういうA子を少し警戒しつつ、でもフレンドリーに近づいてくる相手を拒めずに、つかず離れずしている同僚。ところがA子との会話が妙に心地よい日があることにB子は気づく。「C子ってさ、大した仕事もしないのに、時々遅くまで残業してるのって、アレなんで?“デキる女”のふり?」みたいなことをA子が言うと「えー、そうなのかな?」とか曖昧な返事をしながらも少し元気が出たりする。

そのうち「確かに、ホントの実力以上に部長に評価されるよね」なんて言ってみたりして。「えーでもさ、C子って美人?ああいうの美人って言うの?」とA子。「少なくとも自分のこと美人って思ってるタイプだよね」と悪口の誘惑にしだいに乗っていくB子。「そーよ、そういうカン違いしてないと、ああいうピンクのワンピなんて着ないよね、ふつう」「エルメスのバッグなんか無理して買っちゃうし?」と、B子はいつの間にか悪口のネタを提供する側にまわってしまう。そしてこの先、B子はC子の悪口に関しては、A子と立派な共謀者。「ねえねえ、昨夜C子が誰と歩いてたと思う?」と共闘態勢を強めていって、2人は何かというとお茶してC子の悪口にひたっていくしくみ・・・・・・。

この時点でB子にはもう、あの時あの悪口にさえ乗らなければ・・・・・・と過去をふり返るゆとりさえない。でも“あの時”、B子はおそらく自分自身に自信がもてず、弱っていたからこそ、ウイルスを体内に入れてしまったのだろう。何となく“冴えない自分”を感じている時、自分だけワリに合わない仕事をさせられているとの不満がある時、自分は幸せになれるんだろうかという漠とした不安をもっている時、まさに少し弱っている時に、性格ブスはうつりやすいのだ。A子が提供してくれる人の悪口は、そういう時の苦痛を和らげてくれる“快楽物質エンドルフィン”の分泌を高めてくれるから、とても耳ざわりがよかった。恐る恐る自分でもやってみたら、もっと気持ちがよかった。

たぶんその時は単なる苦痛逃れだったのだろう。でも、一度体内に入れてしまったウイルスは、治療しなければ脳まで到達しかねない。後で冷静になれば、“C子が少しも悪くないこと”は自明の理。でも、性格ブスはひとたびうつってしまうと、今度はC子の悪口を言うことがまるで仕事みたいになってしまう。2人でお茶している時に、偶然店に入ってきたD子とE子を、巧みな誘いで仲間に引き入れたりもしながら・・・・・・。

もちろん性格ブスには、めったに人と関わらず、単独行動を基本とするタイプも少なくない。笑顔がない、あいさつしない。機嫌が悪いと一日口をきかない。声をかけると、ゾッとするような無愛想な対応が返ってくる・・・・・・こういうタイプのウイルスが入ってきてしまうのは、じゃあ、どういう時なのだろう。たぶん元気な時や、他にも元気な人がいる時は「こういう人ってカワイソー。ちょっとでも笑えばカワイイのに・・・・・・」と、反面教師として、冷静に距離を置いて見ていられる。 ところが他に楽しいことがなかったり、幸せの実感がない時は、そういう不機嫌が空気感染してしまいやすいのだ。

最初はまさに空気感染。どんよりとした暗ーい空気が、背中からズズズと近づいてきて、しだいに体を硬くこわばらせていき、やがては顔の筋肉にまで邪悪な緊張を張りめぐらせ、どうしても笑えなくなってしまう。不思議だ。しかも、顔が笑えなくなると、それが逆に心まで冷たくして、だよね、世の中くだらないことばっかりだもんねと、急に“厭世的”になってしまう。顔の表情が心の向きを変えること、じつはとても多いのだ。そうなるともう止まらない。顔の筋肉は、しだいに“笑わない顔”を記憶していき、よほどのことがないと、笑えない顔になっていく。不思議なことに、何人いても、それを押し返すだけの前向きパワーをもっている人がいないと、それはたちまち全体にうつっていってしまうのだ。

そもそも仕事場では“明るい元気”より“醜い不機嫌”の方がむしろパワーはずっと強く、ちょっと力を抜くと“明るさ”は“不機嫌”にあっけなく負けてしまう。だから仕事場では、意識して心に力を吹きこんで、邪悪なウイルスの侵入を防いでいないといけないのだ。しかも、そこはインフルエンザと同じで、予防のワクチンはあっても、一度かかってしまうと、特効薬はなかなかない。性格ブスのウイルスは、そのくらい強烈なのだ。

自分に自信がもてない時、誰かがうらやましい時、また誰かをねたましく思う時、そしてまた毎日があまり楽しくない時、自分は幸せになれないかもと思う時、性格ブスのウイルスは、たった一日で体内に忍びこみ、たちまち全身にまわってしまいかねない。そのウイルスをはねつける方法がもしひとつだけあるとすれば、“私はブスにはならない、ブスにはなりたくない”と唱えることのみ。地球上にいるブスは、結局のところ“性格ブス”1種類しかいないのだから。

“性格ブス”って、この世でいちばん“もったいない女”

顔はキレイでも心は醜い・・・・・・それは主に女が考える“性格ブス”。男が考える“性格ブス”は少し意味が違う気がする。たとえば分別ある男は噂話のレベルでも、“ブス”という言葉はさすがに口にしないが、代わりに“性格ブス”という言葉は堂々使ってしまう。

その真意についてある男が言った。性格ブスの定義は、ちょっと頑張ればカワイくなれるビミョーな位置にいる女が、中身がカワイくないために、ブスという領域へどーんと入っていってしまうケースを指すのだと。男は気に入らない女をブスと呼びたい妙な欲求があって、でもその反対側には女の人をブスと呼ぶことに、ある種の罪悪感もある。ただちょっとでもイヤな内面を見つければ、心おきなくブスと言えちゃう、そういう意味での落ち度を見逃さないようにしているんだ・・・・・・と。逆を言えば、多少とも自分をカワイく見せようという意識がのぞけば、“ブス”の称号をつけるのは何としても避けるのに、自分をカワイく見せることもおっくうがるタイプには、容赦なく“ブス”と言い放ってしまえる、“性格ブス”はその大義名分だというのである。きわどいポジションにありながら、自分をカワイく見せる気もない、女としてのその怠け心に対して、男たちは“性格ブス”というバツを与える。そういうことか? ほんの1ミリのカワイ気があれば、カワイイ女になれるのに、じつにもったいない存在・・・・・・と彼らは言うのである。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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