連載 齋藤薫の美容自身stage2

“悩むこと”は女の仕事か?

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

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女は悩むほどに、人としてまとまってくる。そしてまとまれば、悩むのをやめる生き物。

源氏物語には、恋に悩むあまり死んでしまう女も登場するが、比較的平和な時代の貴族は、本当に恋愛ばっかりしていて、喰うに困らないからこそ、食べることの大切さを忘れ、恋わずらいで命を落としてしまうことが、実際にあったらしい。そして、今の日本の女は、当時の貴族とメンタリティがちょっと似ているなんて見方がある。基本的に平和な時代に、大切に育てられてしまったあたりは、確かに一緒。恋愛ばっかりしているわけじゃないけれど、心の弱さはよく似ている。喰うに困らぬ暮らしはもちろん、挫折に弱いあたりもよく似ている。けれど、今の日本の女は、平安貴族の100倍くらいいろんな体験を強いられているから、悩みの種類も100倍、心はもうボロボロってところだろうか。

でも、今の日本の女が“悩み体質”なのは、日本人の気質と女の脳の特性が、今の社会のしくみとマイナスにリンクしてしまっている結果とも言える。つまり、日本人の多くは遺伝的に物事をくよくよ考える気質、アメリカ人などに比べたら、悩みが洋服を着てるみたいなものらしい。しかも女は悩むのが仕事みたいな性。それはもともと脳の違いから来るものらしく、女は言わば、言葉の生き物、一日に脳に投影させている言葉の数は、男の3倍とも言われる。そして、人間の悩みは意外だけれど、言葉で編み出されるもの・・・・・・。

彼は今ごろまで一体どこをほっつき歩いているんだろ。まさか女と一緒じゃないわよね、まさか女とホテルでお食事してバーへ行って、女が酔ったところで「ちょっと待ってね」なんて席を外して、もどってきたら大きなカギをもってたりなんて、まさかしないわよね!・・・・・・と次々に想像をめぐらしていくのも、じつは出てこなくてもいい余計な言葉が頭の中にボンボン浮かんでくるからなのだ。つまり、天性クヨクヨする気質で、おまけに言葉が山ほど頭の中をかけめぐるから、女は悩むのである。

そこに加えて、今の時代はいやらしいほど女を悩みに追いこみやすいしくみになっている。女も男並みに働き、女だって充分成功できるという可能性がやみくもなプレッシャーを与える。と同時に、仕事で羽ばたけないなら、せめてよい結婚をという裏プレッシャーがまた女を追いたてる。そして人間同士の関わりが希薄になり、他人への思いやりが減ってきているのに、“知り合い”の数は増えていく一方の時代、傷ついたりモメたり争ったり競ったりする回数も当然増えてくる。今をきちんと生きる日本の女は、どうしたって、世界有数の悩める人になってしまうのだ。

けれども今、日本のオバサンは逆に世界有数の強靱な心を宿していると言ってもいい。なぜかと言えば、女は20代から30代前半くらいまででほとんど一生分の悩みを悩んでしまい、そこでギリギリまで自分を追いつめるから、悩みに対する免疫がけっこうできてしまうんである。少なくとも結婚、仕事、恋愛、人間関係と、20代は悩みを三重四重にも抱えこむ。仕事においても“自分の天職”がまだよく見えないから、日々無駄なことをしているんじゃないかとイライラする。人間関係においても、自分の性格もまだ“性格占い”を見ないと確信がもてないくらい曖昧で、人の性格を冷静に分析しているゆとりもあまりないから、人をよけきれずにぶつかることもまだ多くある。何より、女は結婚しなきゃ“自分の人生”のリンカクすら見えないと思いがち。結婚しないと落ちつかない、だから先をきっちり見据えるゆとりもなく、雲のような曖昧な悩みを胸の中にいっぱい取りこんでしまうのである。

しかも困ったことに、20代の悩みは実際のところあんまり具体的じゃないから、解決法も曖昧。結婚して母親にでもなれば「うちのユーカがご近所のケンタくんをいじめるって、ケンタくんのママが言いふらしているのが悩み」みたいに、悩みが妙に具体的になってくるが、20代の悩みはまさに雲をつかむよう。それはひとえに自分のことが何ひとつ明確に決まっていないからなんである。

従って、結論を言えば、女は結婚前だからこそ宿命として“人生における悩みのピーク”を迎えてしまう。ただ逆を言えば結婚すれば、ノドのつかえがとれるように、茫洋とした悩みはなくなってしまうはずなのだ。しかも、女の人生には解決しようのない悩みを悩む時期も必要なんじゃないかと思う。それは、心の頑丈なオバサンになって、気弱な夫を支えるため・・・・・・もあるけれど、たくさん悩んだ人ほど、人間に深みと魅力が出てくるのは、紛れもない事実だからなのだ。悩まないまま大人になってしまった人は、いわゆる根拠なき自信に満ち満ちている“困った大人”になりがちだ。人の痛みがわからない、人の心の機微がよく読めない、頭がよくてもバカな大人になりがちだ。

なぜなら、女は悩むことで言葉をはき出し、悩むことで語彙を増やしていく。悩みを言葉にし、言葉をどんどん増やすことで、細胞分裂し、成長し、人としてまとまっていく生き物だから。自分を考え、自分の心を言葉にする・・・・・・そういう悩みは、女を必ず成長させる。自分の悩みを2時間たっぷり語ったら、それだけで女はひとまわり大きくなり、悩みはだいぶ小さくなっている。だから今は悩めばいい。どんどん頭の中で言葉を組みたて、時にはヒマな友だちを見つけて、話してみたらいい。悩むのは女の仕事、女としてまとまってくるまで、悩むことは女の栄養なんである。

そしてそう思えば、悩みは辛いだけのものではなくなる。何かを生むために苦しんでいる、これは胎動なのだと思えば、いくら悩んでもつぶれることなく、先に行けるだろう。ひとつだけ注意したいのは、同じ内容で何度も悩まないこと。これはこの間悩んだから、今度はせめて違うことで悩もう・・・・・・そう思うことが、悩んで育つコツ。どっちにしろ、悩みのピークはいつまでも続かない。女のハシカにすぎないのだから。

悩むなら“起承転結”をハッキリさせよ

“悩むのは女の仕事”なら、せめて手際よく仕事をこなそうという提案。いくら悩んでもいっこうに成長しないのは、悩み方が間違っている証拠。女がよく間違えがちなのは、毎晩同じ本の、数ページだけを読んで寝てしまい、ちゃんと頭に入っていないから次の夜また同じページを読んでまた寝てしまうみたいに、いつも同じ部分だけを悩むだけでやめてしまう悩み方。これではいくら悩んでも、話が先にいかない。心の整理もまったくつかない。悩む時は、本一冊一気に読み終えて、二度とその本を開かないくらいの覚悟で、ひとつの悩みを悩みきること。

悩みも一編の小説みたいに、必ず起承転結があるもの。なぜどのように問題が起こったのか、それがなぜ悩みを生み、どう展開しているのか、そして、どうしたらこの悩みが終わり、どうしたら胸におさめることができるのか、そこまで考えないと悩んだことにはならないし、もちろん解決しない。

悩むことは、考えることで、不愉快なことをわざわざ引っぱり出して、フーッと肩を落としたり、泣いたりすることではない。途中で終わらせてしまうから、不幸のどん底でいつも物語が終わってしまうのだ。悩むなら、最後まで悩もう。どうしたら悩みが解決するか、女はもうだいたいわかっている。ひと晩で心が晴れないなら、また次の夜に、一冊丸ごとを。3日目くらいには必ず終わる。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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