連載 齋藤薫の美容自身stage2

捨てられない女

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

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モノを捨てられないのはもったいないからじゃない。本当は捨てるのが面倒なだけなのだ。

“捨てられない女”は、本当に何ひとつ捨てられない。着なくなった下着から履かなくなった靴、持たなくなったバッグまで、ブランドものの紙袋なんて10年分は取ってある。でも、なぜそんなに捨てられないのか?もちろん、もったいないから。いつか何かに使えるかもしれないから。きっとそう言うだろう。でもそれ以上に、捨てるのが面倒だからなのじゃないか。何ごともグズグズと決められない、そしてちょっとダラしない、そういうタイプが“捨てられない女”になるわけだが、自分自身がそうだからよくわかる。結局は面倒だから捨てられないのだ。捨てる勇気がなくて・・・・・・なんて思いこみ、じつは億劫だから捨てられないのだ。

よく賞味期限の切れた食品が、もう食べるはずがないのに冷蔵庫にしまわれてたりするのも、要は捨てるのが面倒だからだが、使う可能性がほとんどないものを“いつかまた使うかもしれないでしょ?”と自分に言いきかせて取っておくのも、要するに面倒だからなのである。そしてモノを捨てられないと、結果、家は散らかり、生活はアレて、気持ちもすさむ。だから、マズイのだ。そして気がつけば“捨てられない女”は、古くなった恋とか、危うくなった自分の立場とか、もう実現不可能になった可能性とか、そういうものも捨てられない。生きていく上で当然捨てたほうがいいものも、そっくり捨てられない。だから、心の中がどんどん散らかり、人生がアレて、自分自身がよどんでいくのである。

友人に、捨てるのがとても上手な人がいる。彼女の家のドレッサーは常にモノがぎっしりと詰まっているのに、いつも驚くほどキレイに整頓されている。それを不思議に思い、なぜ散らからないの?と聞いたら、しょっちゅうモノを捨てているからよと彼女は言った。そうか、モノは片づけるだけでは、また整理整頓するだけではいけないのだ。増やしたつもりがなくてもモノは増えていくから、整理よりまずモノを捨てることなのだ。その人は、なるほど転職も早かった。新卒入社した第一志望の会社を、一年半ほどであっけなく辞めた。友人の中でいちばん早い転職だった。それに、結婚もいちばん早かった。いつの間にか彼ができ、いつの間にか結婚していた。

その時は気づかなかったが、おそらくそれも“捨てられる女”だからなのだった。25~26歳の頃って、女は往々にして愛のない、実りのない恋愛にどっぷりつかっていたりするもので、みんながそういう深みにハマって手足をバタつかせているうちに、彼女だけは身軽に歩きまわり、愛ある男とさらりと出会ってしまったのだ。いつも小マメに不要なモノを捨てているクセは、そういう出会いがあるかないかに多大な影響を与えてくる。人間は思いのほか小さな容器で、モノがすぐいっぱいになってしまう。中身を逐一始末しておかないと、新しいものが入らない。その小さな積み重ねで、人生には思いがけない差がつくものなのだ。

ところが、ある時期から彼女はパッタリと捨てなくなった。おそらくは自分の基本スタイルを見つけたからなのだろう。自分にとって正しい生活スタイルの扉を開けるカギ。それを見つけるために、いろんなものを惜しげもなく捨ててきた。そのカギ穴にピッタリ合うカギが見つかるまで、このカギは違う、このカギも違った、これも違う、これもこれも・・・・・・と、次々カギを試しては、合わないカギは捨ててきた。そして、誰よりも早く目指すカギを見つけてその扉を開け、ようやく腰を落ちつけて、日常生活をゆったり歩み始めたのである。そしてまたたく間に自分の人生を形づくってしまった。何という手際の良さ! 

多くの人はとてもやみくもに人生を歩いている。今の仕事が自分にとっていいのか、今の相手が自分にとってベストなのか、よくわからないままに日々を過ごしてしまっている。だから“今”をグズグズと捨てられない。でも彼女だってわからないからこそ、いろんな自分を試して、いろんな自分を捨てて、面倒がらずに動いたから自分にとってベストなものが人より早く見えてきたのだ。

人生がうまく先に運ばないことに関して、「私って運のない女」とか「自分に自信がもてなくて」とか、みんないろいろ言うけれど、たぶん本当はすべてが面倒なだけなのだ。それに気づかないと、人生はいつまでも曖昧なままだし、自分の日常が期限切れのモノでいっぱいになってしまいかねない。面倒がらずに不要なものを捨てる、すると新しい風が一斉に吹きこんでくる。そして新しい道が一気にひらけるだろう。そうやって日々を新陳代謝させてほしい。それが自分の基本スタイルを早々に見つけて無駄のない人生を歩んでいく、たったひとつのコツかもしれないのだから。

捨てられない女は、まず何から捨てるべきなのか?

いつかまた着るかもしれない・・・・・・そう思って、取っておいた20年前の服を、ついこの間本当に着た。歴史は繰り返し、ファッションは繰り返すと言われるが、まさに流行がすっかり一巡したことで、捨てなかったプッチ柄の服を、もう一度着ることができたのである。しかし、そうやって捨てずに取っておいた服で、本当にもう一度着られたのは、あとにも先にも、その一着だけ。つまり、いつか着るかもしれないと思った服は、基本的に一度も着ないで終わる、そう言い切ってしまってもいい。「いつかね」という約束は、守られないことになっているのである。

服だけじゃない、靴もバッグも、“いつか”と思って少しでも奥のほうにしまったら二度と身につけない。私たちは生きていて、時間は刻々と流れているからである。その時点で、少しでも古くさく見える形は、来年はもっと古くなっている。だから一巡するまでは、ぜったい身につけないのである。

いつか使うと思っている袋や箱やリボンも、実際には使うかもしれないが、思い切って捨てた時点で数分後にはもうその存在が記憶の中から消えている。だからあとでもったいないことをしたと後悔することは絶対にないはず。さあどうだろう。今使わないものは、すべて捨てるもの、そう思うと、もう清々しい空気が一斉になだれこんでくるはずである。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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