連載 齋藤薫の美容自身stage2

やりたいことがある女と、ない女

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

“やりたいことのある女”は孤独に強い。つまり、ひとりでいても輝けるからまたすぐ幸せが来る良循環。

ある女優の“別れ”がちょっとした波紋を呼んでいる。女優の高樹沙耶さんが“フリーダイビング”の日本記録を作り、ワールドカップの2位(日本女子チーム)になるという快挙を成し遂げた時、コーチであり“恋人”でもある男性と二人三脚でその夢を叶えたことも当時ずいぶんと話題になった。しかしここへ来て、その男性とのハワイでの婚約同棲を解消。“生きていくスピードがまったく違うこと”を理由に別れを決意したとその人は語った。自分は回遊魚のように動きつづけていないと死ぬ、みたいな人だから・・・・・・。ワールドカップで勝利するという夢のひとつを叶えたとたん、また別のことがしたくなったからスローに生きる恋人のもとを離れた・・・・・・というふうにもそれは聞こえたものである。

考えてみれば、すごいこと。女優という仕事を持つ人が、今まで経験のなかった競技で、たちまち日本記録を打ち立ててしまうのだから。でもこういう人はたぶん他のことをやってもそれなりの結果を出してしまうのだろう。またこういう人だから、ひとつのハードルを超えると、すぐに次のハードルを超えたくなるのだろう。結果、つねにやりたいことがある人・・・・・・。この人の生き方を見ていると、つくづく思う。自分はなんて“やりたいことがない女”なのだろうって。そして“やりたいことがある女”は、なんて強いのだろうって。単純に、“やりたいことがある女”が“やりたいことのない女”より密度の濃い毎日を送り、人生を面白がれることはわかっていた。でもやりたいことがあると、女はある特殊な力を持てるのだということには、ここで改めて気づかされた。

“やりたいことがある女”は、言ってみれば孤独に強くなるのだ。“ひとり”になることをいとわない、女としての強さを持てるのだ。もちろん、それぞれの“別離”にはそれぞれの事情があるのだろうが、でも別れを決断する時の心の支え、心の底上げに、孤独を恐れない強さがあることは確か。もちろん、“やりたいことのある女”が、みんなひとりで生きられるわけじゃない。でも、“やりたいこと”は、“仕事”と違って、恋愛の代わりにもなりうるのだ。女としての孤独感を、仕事は埋めてくれそうで埋めてくれないが、“やりたいこと”は一時的にでもしっかりと埋めてくれる。仕事はイザという時、女をあんまり救ってくれないが、“やりたいこと”はとりあえず、奈落の底からだって女を救ってくれるのである。

だから女は、一刻も早く“やりたいこと”のある女になっておくべきなのだが、それってなりたいと思ってなれるものなのか。そういう意志って“生まれつき”のものではないのか?“何かをやりたい”と思う気持ちの源には、確かに生まれつき備わった活動のエネルギーというものがあり、もともと人より大きなエンジンを持っている人は、“やりたいこと”をやり遂げる力にも当然のこととして人より長けている。

でも“やりたい気持ち”には“やれる”という自信も必要だから、過去にやり遂げた経験がないと、どうせダメだろうとハナからやる気も起こらない。従って“やりたいことのない女”はやらないからやり遂げられず、だから何もやりたくないという悪循環に陥っているのだ。もし“孤独に強い心”を養いたいと思うのなら、人生をかけて何かをひとつ、やってみてほしい。そしてもちろん、やり遂げてみてほしい。ひとつでも自信を得ないと、すべては始まらない。やり遂げグセをつけることが何より大事なのだ。

そしてもうひとつ、自分の時間を人に埋めてもらおうとする精神的な依存をやめること。“やりたいことのない女”は基本的にいつも誰かに自分を楽しませてもらおうと思っている。誰かに充実させてもらおうと思っている。自分では何もせず、心の充足は人から与えられるものだと思っている。“やりたいことがない女”ほど、幸せへの執着が強いのも、また皮肉な話で、自分がちょっと動けば、幸せはすぐそこにあるかもしれないのに、他人が幸せにしてくれるという依存心があるから、ジッと動かず待ってしまう。だから幸せはやってこないという悪循環、それをまず断ち切らないと。恋人ができると、毎日毎日会っていないと気がすまない人は、紛れもなくそのタイプ。誰かがそばにいないと、幸せも何も始まらないと思うわけだから。

そう、“やりたいことがない女”は、要するに恋愛体質で、恋を最優先するから“やりたいこと”が容易には見つからないのだ。でもだったら、恋人のいない時こそ、何かをやり始めるチャンスじゃない?と言うかもしれない。しかし、恋をしていないと生きている実感がなく、何かをやるエネルギーも湧いてこない、それが恋愛体質の女。恋の充足で心がパンパンになり、イヤになるほど愛されていないと、やりたいことを始めないのが特徴なのだ。おそらくはだから、相手に集中しすぎて、せっかくの恋愛をダメにしてしまいがち。逆に“やりたいことのある女”は、恋よりむしろ“やりたいこと”を優先するから神秘的に見え、男を惹きつける引力も強くなる。だから、またすぐに“出会い”を果たし、ひとりになってもまたすぐ結婚できたりする。そこが何とも強み。幸せになれる強みだ。

“やりたいことがある”・・・・・・それは意外だけれども、いい恋をするための、幸せな結婚をするための間接的な決め手なのである。

“やりたいことがない女”が増えているって、本当か?

少なくとも今の30代半ばから上は、“やりたいことが山”というタイプが多いのかもしれない。自信に満ちていてエネルギッシュ、しかも貪欲ときてるから、やりたいことだらけで、自己表現の欲求不満に陥っている人も少なくない。よく言われるように、これはバブルが作ったパワフル世代の決定的な特徴。ちなみに先に取りあげた高樹沙耶さんも、この世代である。その反動か、上の世代に圧倒されてきたせいなのか、単に悲観的な時代のせいなのか、その下の世代は“やりたいことがない女”の比率がとても高いのだという。多くを望まず無理をせず、自分たちに与えられた仕事を黙々とこなしていく。自分を実物大以上に大きくは見せない、とても堅実な人たちだが、少々覇気がなく、意欲に欠けるという声もある。

しかし、こういう世代の女性たちも“やりたいこと”がないわけじゃなく、自分自身にていねいに手間をかけてあげたり、日常生活のひとコマひとコマを大切にしたりと、日々小さな“やりたいこと”でいっぱい。だからひとりになる孤独には強くはないが、何気ない日常に手間をかけるのは、仮にひとりになっても孤独に涙するのじゃなく、次の恋まで心穏やかに充実した生活を送るためなんじゃないかって気がする。もしそうなら、女としてなかなか賢い。だからこの人たちは大丈夫。“やりたいこと”が今はまだなくたって。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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