連載 齋藤薫の美容自身stage2

恋をしないと減っていくもの

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

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恋愛は、女を”夜叉”にもすれば、”聖女”にもする。 でもそれが人格を成熟させる。

最近のアンケートで、その結果にちょっと驚いたのが、18歳から34歳までの男女に聞いた「恋人はいますか?」への回答。女性では“恋人がいる人”32%、男性に至っては24%という数字だったのだ。10年ほど前に見た同じようなアンケートの結果は、確か“恋人がいる人”が60%台。10年で“恋をする男女”が半減してしまったということになる。でもなぜ?たぶんそのほうがラクだからである。恋人がいるってある意味、面倒くさいからである。

口では「恋人が欲しい」と言いながら、もうしばらくいいやと思っている。だんだん腰が重くなる。知らず知らず心地よくなってしまう。それは、ちょっとぬるめのお湯みたいで、いくらでも長くつかっていられるのだ。もちろん恋愛するもしないも、本人の勝手……ではあるけれど、ここらで一応、“恋愛しないとどうなるか?”そこだけは確認しておきたい気がするのだ。まず恋愛は“細胞”でするもの、である。だって寝て起きて、ごはんを3回食べてという日常のしくみには大きな違いがないのに、恋愛しはじめるとまるで別人の人生を生きているみたいに感じる。それは細胞がハシャぐから、に他ならない。恋愛しはじめの時って、明らかに体がふわふわしていて、それは恋愛しないとまず得られない感覚だ。

そう、恋をしないと減っていく最たるものは、日常的には得られない感情。“喜怒哀楽スペシャル”といったもので、良くも悪くもふだんは湧きあがらない特殊な感情が、恋愛やってると次々立ち上がる。恋愛のメリットは、ちょっと恥ずかしいくらいウキウキしたりする幸福感を感じることだったりする一方、恋愛なんてしなきゃよかったと思うくらい、今まで気づかないでいた夜叉のような自分が突然顔を出す瞬間。ヘビーな恋愛をしなきゃ、またズルイ男と付き合わなければ、一生顔を出さなかったかもしれないイヤな女が、不意に顔を出す。そういうリスクをもつのは恋愛だけなのだ。しかし、皮肉だけれど女が思いがけなく進化するのは、むしろそういう瞬間だったりもする。恋をしないと女は良くも悪くも変われないのである。

仮に鬼のような女が顔を出したとしても、そういう自分がいることに衝撃を受けるからこそ、自分をコントロールできる自分が生まれていく。それはまぎれもない成長だ。どんな自分であれ、すべての自分を掌握しているのが、大人。とんでもなく性根の悪い自分を見つけてしまっても、そういう自分をちゃんと知っていて感情をコントロールできれば、ただひたすら性格のいい女性よりも、むしろ上等かもしれない大人がそこにできあがる。恋愛は、そういうふうに隠れていた本性を明らかにしてくれるもの。知りたいなら、やっぱり恋はすべきである。しかし、恋愛は女を“聖女”にもする。それこそとことん性格の悪かった女を、ウソのように心優しい女にもする。

いやそもそも“他人に厳しく自分に甘い”タイプの人は、恋人を自分以上に大切にしたりするものだが、それはここで言おうとしている優しさではない。まだVOCE読者には早すぎて想定外の話だろうが、たとえばの話、相手に“介護の必要な親”がいたら、あなたは“結婚を前提とした恋愛”ができるだろうかってことなのだ。愛する人の親だから、“何でもしてあげる”って思う、たぶんそれはホントの“愛情がさせること”、相手への愛情が形を変え、自分に戻ってきて“大きな優しさ”に変わってる。だから本当にイヤがらず、お世話をできると思えてしまうのが、“恋する女”の不思議なのである。でもそれだって、立派な“人格”の目覚め。私にこういう心があったの?と驚くことになるだろう。“自分が幸せだと他人に優しくできる”というけれど、恋する気持ちが非情な女の中にも慈愛の心、つまり無償の愛を生むのは確か。もちろん相手を本気で愛していなければ、そんなもの生まれやしないが。

とにもかくにも、恋をしないといろんな意味で心が縮んでいってしまうのは確か。心がムダをそぎ落とし、シンプルになるというふうにも訳せるし、ほんのり心地よいことだけを求めて生きていくなら、それでも充分幸せなのかもしれない。そして反対に、恋愛はハッキリ言っていろいろ辛い。辛いから、いろんな感情が起き、嫉妬に狂うこともあるけれど、でも辛いからこそ不思議なエネルギーが生まれ、相手の親のおしめを替えなきゃならない辛さも乗り越えることができるのだ。どっちを選んでもいい。自分の人生なのだから。

ただ、恋愛したほうが、人格が早く“熟成”していくことだけは確か。一度も恋愛経験のない女が、どこか身勝手な女に見えるのはそのため。辛く面倒だけど、前に進みたいなら、やっぱり恋愛だ。

いちばんの疑問恋をしないとブスになるのか?

恋をしないと減っていくもの……そう言っていきなり頭に浮かぶのは、やっぱり“キレイ”。何しろ“恋をするとキレイになる”は大昔からの常識。しかし最近は、恋をしていない時のほうがキレイだったりする人も多数 … …。普遍の法則にも狂いが出てきたということなのだ。恋をしてキレイになるのは、言うまでもなく女性ホルモンの分泌が高まるから。しかし今のキレイは女性ホルモンみたいな生理現象などよりむしろ“マメさ”や“執念”のほうが大きくモノを言う時代。つまり、シートマスクの一枚もすれば、その程度のキレイはすぐ手に入るし、女性ホルモンがもたらす目のキラめきだって、いくらでもつくれてしまう。逆に恋愛にふわふわしているより、家できっちり美容をしているほうがよっぽどキレイになれる世の中だ。

しかも恋愛が女をキレイにするのも、医学的に言ってせいぜい3ヵ月間まで。そのあとは“誰でも一度ブスになる”っていう説も。なぜならホルモンバランスは、一時的に多くなればその反動でまた一時的に減るしくみ。加えて3ヵ月も付き合えば、何かとモメごとも起きてきて、精神的ふわふわも終わり、キラキラできなくなる。それよりコンスタントに美容していたほうがずっとキレイが積み重なるというわけ。もちろん良いか悪いか知らない。女は愛されるためにこそキレイになるべきというキレイの定義には反しているのだけれど。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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