連載 齋藤薫の美容自身stage2

ファーストレディな女の幸、不幸

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

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今も憧れ”エリート妻”も、夫と一緒に落ちてもいける愛情が今や絶対条件なり

今の日本のファーストレディは、過去の歴史に例がないほど、高い好感度を誇っているそうである。理由は明白で、あの親しみやすい笑顔と、ちょっと地味なくらいオーソドックスな、でもちゃんとセンスを感じさせるファッション、そして何より必要以上に出しゃばらず、控えめすぎない天性のバランス感覚……。

しかし今までの日本のファーストレディは、あくまで“イメージ”だけれど、お着物や華やかな色のスーツといういでたちで近寄りがたく、自分たちなんか絶対お友だちにしてもらえそうにないカンジ、があった。もっとも、親しみを感じる前にもう首相交替で、ファーストレディでなくなってしまう人がほとんどだったけど。

結局、小泉さん時代は5年間もファーストレディが存在しなかったことになるが、とくに、不都合ヲは感じなかった。いや、好感度抜群の今の首相夫人も、ひとたび笑顔が曇ったら、服装が奇抜になったら、何を言われるかわからない運命にあり、日本中が偉そうにその言動を採点しているのだから本人はたまったものじゃない。しかも、ファーストレディの栄光は本当に一過性のもの。

ファーストレディ……言うまでもなく、要人の夫人。“各界の第一人者”や“指導的立場にある女性”という意味も持っているけれど、日本ではやっぱりエライ人の奥さんのことを指す。で、日本の女が“いい結婚”に今なお強い憧れを持っているのは間違いないが、どうせ“玉の輿”を狙うなら、“エライ人”よりただの“お金持ち”を選んだほうが、当然のこととしてお気楽。そこまで世間の目が厳しくなく、どこか無責任になれ、夫の浮き沈みにそこまで左右されないから。妻としてのリスクも少ないからである。しかしそれでも女にとって“エリートとの結婚”は大きい。場合によっては、自分自身がエリートになる以上の達成感があるから?

たぶん女として“選ばれた勝利者”の味わいがあるからなのだろう。だいたいが、自分がエリートや成功者になっちゃったら、これからもずっとずっと頑張りつづけなきゃいけないし、息を抜けない。でも“エリート妻”の座は一度獲得したら、あとは夫のさらなる飛躍を願うのみ。もちろんそれなりの苦労はあっても、一見とても安泰だ。ところがエリート妻にも、今の時代は思いもよらない、いろんなことが起こってしまう。

たとえば、政治家が選挙に落ちて“ただの人”になってしまった時、その妻は一体どういう心境なのだろう。また、汚職や何かで官僚が懲戒免職になった時、どこかの一流企業が倒産した時、その妻の運命はどうなるのだろう。いや、エライ人ほど悪いことをしたら罪が大きくなり、痴漢で人生を半ばダメにする。じゃあその妻たちは?そう思うことが、このところとても多いのである。“人生“一寸先は闇”と言うけれど、じつはエライ人の妻ほど、一寸先は闇のリスキーな人生を歩んでいるのかもしれない。そして夫の失脚で闇に追いやられた時、妻の喪失感は並大抵のものじゃない。自分ではなす術がなく、“女として選ばれた”にすぎない勝利のモロさを思い知るはずだ。

だからこそ、そういう時の“エリート妻”の命を支えるのは、夫への愛情以外何もない。プライドを守り抜きたい妻は、まず離婚を考えるのだろうが、愛があれば一緒に落っこちていける。ここはひとまず一緒にどこまでも落っこちていってあげられるのが、よい妻の条件。夫のポジションに自分の運命をあずけたのだから、最後まで運命共同体。そこまでの覚悟がないなら、エリート妻になってはいけないのである。一方で、“ファーストレディ”という呼び名を生んだアメリカでも、理想のファーストレディの絶対条件は、“夫を愛していること”なんだそうである。ふたつめに、包容力。言葉少なに、包容力という温もりあるオーラで、人々を、そして夫を“ふんわり包み込む妻像”が理想ということ。さらには、やっぱり美しいこと……。

でもそれって、ファーストレディの条件に限らない。エリート妻はもちろん、ふつうの妻だって同じ。“女”が“妻”として輝くための三大条件。夫を愛し、言葉少なに周囲を温かく包み込み、そしてちゃんと美しくあること。それができれば、夫の転落もコワくない。きっと夫とともにまた浮かび上がれる。そこまで含めて妻の幸せ。結婚している人も、これからする人も、そういうファーストレディの心得だけは、ちゃんと胸にしまっておいて、時々とり出してはかみしめてほしいもの。

ちなみに、アメリカのかつてのファーストレディ、ヒラリーさんが今度は自ら大統領の座を狙っている。支持率もなかなか。“理想の妻”をやった人は、自らが指導者というもうひとつのファーストレディにもなれてしまうということ?愛情と包容力と美しさ……最終的にそれが、妻としても人としても、女が勝つための三種の神器なのである。

もうひとつ、よい妻の条件は、“満たされてること”

そう、“小泉さん”時代、5年以上も日本にはファーストレディってものが存在しなかった。そのせいか、現首相とファーストレディが手をつないで飛行機のタラップを降りてきた時、ちょっとドキドキしたもの。相談の上の計画的行動であるのを物語るように、お互い一拍、息を合わせながら同時に手を握り合う。あの感じはもちろん少しぎこちないけれど、でもその光景、何度か見るうちに、だんだん心地よくなってきた。日本のファーストレディの“満たされた安心感”みたいなものが、きちっと伝わってくるからである。

何でも、女の精神がいちばん安定し、満たされた心になるのは、愛する人と“手をつないだ瞬間”らしい。いや、そもそも“恋愛ホルモン”と呼ばれる脳内物質がいちばん濃厚に分泌されるのは、初めてキスをする時よりもむしろ、初めて手を握られた時……なんていう説もある。

人間の手はもうひとつの心臓とも言われるくらいだから、手から手へ伝わるものは、何かちょっと霊的なもの。それが、女の心を穏やかにやわらかに包み込むのだろう。“よい妻”のもうひとつの条件は、満たされていること。生活への不満や夫への不満がないこと。それをあの“手つなぎ”で、国民の前で証明しているよう。だから何だか心地よいのだ。ファーストレディだって、ふつうの女。そこが見えた時ほど、大衆の心を打つのかもしれない。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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