連載 齋藤薫の美容自身stage2

ヒロインな女の幸、不幸

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

女の人生には、どんなにささやかでもヒロイン体験が必要だ。

あなたは今まで、ヒロインになったことがあるだろうか。学校の学芸会でのヒロインでもいい。何かのコンテストで優勝したでも、学級委員をやりました、でもいい。ひとり脚光を浴びた経験があるだろうか。そうそう、結婚式の花嫁は一応みんなヒロインで、“一生に一度、あなたが主役になる日”っていう見慣れたコピーも、まんざらウソではない。ただ花嫁は自らが申し込んでなるもので、本来のヒロインはやっぱり選ばれたり、勝ったりしなければなれない。何らかで“イチバン”になれないと得られない立場。

ただ花嫁は自らが申し込んでなるもので、本来のヒロインはやっぱり選ばれたり、勝ったりしなければなれない。何らかで“イチバン”になれないと得られない立場。そして、そういうポジションをいつも何となく目指している人は、言わば“ヒロイン体質”の女である。どんな劇団にもヒロインしか狙っていない人と、ハナっからヒロインを諦めてしまってる人とがいる。それは美貌や体型のせいばかりじゃない。性分なのである。二人は、かなり異なる人生を送ることになる。

“ヒロイン体質”の女は、基本的にどこに行ってもイチバンを目指すから、ちょっとした合コンでだって一番モテなきゃいけない。だから着る服だって違ってくる。話す言葉も違ってくる。仕事場でも負けん気を発揮するだろうし、それなりの努力もするだろう。だからイヤでも磨かれていくはずで、成長の幅も大きいのは確か。そういう意味で言えば女はみんなヒロインを目指しておいたほうがいい、ってことになる。

でも、一度何らかのヒロインの座にいたことのある人ならわかるだろう。その座を守るのは並大抵なことではない。アメリカの映画界でも、一人の女優が文字どおりのヒロインを演じられるのは、スーパースター級の人気女優でもせいぜいが十年とちょっと。いわゆる美人女優でも、演技派女優でも、ピークを張れる時代は不思議にそう長くはつづかない。比較的早くから頭角を現したスカーレット・ヨハンソンとか、美人女優にして演技派のアンジェリーナ・ジョリーやシャーリーズ・セロン、何度でも“復活”するデミ・ムーアなどは例外としても、一人の女がひとつの世界でヒロインでいつづけるのは本当に難しいのだ。

したがって言うまでもないことだが、ヒロイン体質の人は、栄光と挫折の両方を繰り返す。大きな栄光を得た分だけ、大きな挫折を味わう人生。とすると、はじめからヒロインになることなど考えない人生のほうが、いっそ楽ちんで心地よいようにも思えてくるが、一度もヒロインを目指さない人は、もっと大きな挫折感にどっぷり浸かりながら生きることになるのかもしれない。

どこかで何らかのヒロインになろうとするのは、女にとっての攻め、人生の挑戦。それが一度もなく終わってしまう人生はやっぱりひどく物足りない。脚光を浴びるのが、人生のうちで結婚式のたった一回という人は、だからその後の人生にやがて必ず不満や虚しさを感じるようになるものなのだ。だから何でもいい。小さなお店を開店して祝福を受ける時も、それはヒロインになる瞬間だし、何かひとつの仕事で高い評価を受ける時も、ヒロインになった快感を味わえる。女にはどんなにささやかでもヒロイン体験が不可欠。いきなり諦めてしまわず、いつかどこかでヒロインになる日を模索しながら歩いていく、そういう人生がいちばん正しいのかもしれない。

ちなみに、人より長くヒロインでいつづけられる人って、何が違うのか?アンジェリーナ・ジョリーやシャーリーズ・セロンは、ハリウッドでも例外的に長くヒロインをつづけてる人と言ったが、彼女たちの共通点は、美貌に恵まれながら挑戦的なこと。仮に最初は美人であることで注目を浴びたのだとしても、そのイメージを自らがぶち壊すような役柄で世間を裏切り、かと思うとすぐ“絶世の美女”に戻って、またもや世間を裏切るという具合に、ひとつではない複数のパワーを混在させる。不意に別の顔をのぞかせて、いつも新鮮な驚きを周囲に与え、だからヒロインでありつづけるのだと思う。デミ・ムーアもいろんな顔を見せ、そのたびに人々を驚かせて、そのたびにヒロインの座を持っていく。マドンナもこのタイプで、美貌と実力と、何度でも繰り返される挑戦で、何度でもヒロインを持っていく。種類の異なる才能ふたつ、それにチャレンジ精神があってこそ、ヒロイン出ずっぱりの人生を送れるのである。おそらくこの人たちに限っては、おばあさんになるまで何かやらかしてくれるのだろう。

けれど、一生ヒロインでありつづけるのも少し疲れるから、時々でいい。忘れた頃に時々、ちょっと周囲の注目をぱらりと浴びる。そんな人生がいちばん幸せなのかもしれない。だから、挑む心だけは忘れずに。挑まないと、使わない体の中の才能は、しだいに眠っていってしまうものだから。ヒロイン願望は才能をのばすためのもの。何だかぼんやりした夢を持つより、目先のヒロインになること、そのほうが女は輝くはずなのである。

ヒロインになるには、まず“勝ち気”になることだ

あらゆる小説のヒロインは、気が強い。勝ち気なくらいでないとドラマにならない。ストーリーってものが展開していかないからである。大昔、誰かが“不倫は文化”発言をした時、正確にはあの前にこんな主旨のコメントがくっついていたという。小説だって何だって、不倫のような背徳の愛にこそドラマは宿る……確かにそう、“夫婦円満”を物語に仕立てるのはけっこう難しい。女の気の強さも同じなんだと思う。

男を主人公にしたものならば、わざわざ病的に気弱な男を題材にした“電車男”みたいな話もドラマにしてしまえるが、ヒロインは基本的に、気の強い女ばかり。「ハケンの品格」しかり、「大奥」しかり。一見気が弱そうでも芯が強くないと、ドラマのヒロインにはなれない。ディズニーの世界でもイソップ童話でも同様、それが女という“性”なのだ。

そしてヒロイン体質の女も、やっぱり全員気が強い。一見ふんわり見えるスケートの真央ちゃんもそう。オスカーにノミネートされ、にわかに脚光を浴びているニューヒロイン菊地凛子も、どうしてもあの役をもらいたくて監督のもとに日参したほど“強い心”の持ち主。一度でもヒロインになりたいなら、まず大前提はこれ、気の強さなのだ。でもその強い心臓と、世渡りのうまさや優しさを共存させていないと、一般社会ではなかなかヒロインをさせてもらえないことも、よーく覚えていて。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

Serial Stories

連載・シリーズ