連載 齋藤薫の美容自身stage2

プライドの高さが、不幸を呼ぶ

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

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この世でもっとも恋愛がヘタなのはプライドの高すぎる女である。

まったくありえない、異様な事件が多い中、もちろん“ありえない”けれど、なぜだか“他人事”では片づけられなかったのが、あの“カオリン”が起こした“エリート夫殺害事件”。きっとこれを読む多くの人が、「お友だちの○○ちゃんちみたい……」とか「こういう人、知ってる」とか、あるいはまた「このカオリン、私に似てる」などと思ったに違いない。お嬢さん育ち、有名女子大卒、キャビンアテンダント志望、でも落っこちてハケン社員をやっていた。合コンで“弁護士志望の高学歴男”と出会う。そしてスタイル抜群の美人、ブランド好き、オシャレ……。そういう最低限のプロフィールを並べただけで、何となく浮かび上がってくるのが、“プライドの高さ”。

性格のことなど、ひとことも書かれていないのに、私たち女には何となくわかってしまう。この人きっと、相当にプライド高いって。そして、何かこの人、自分に似てると思った人は、たぶんそこのところにピンと来たのだろう。“プライドの高い女”は、確かにこういうこと、やらかしかねないよね……と。プライドの高い女は、それなりに“人のうらやむ人生”を送っている。プライドが高いからそうなったのか、いろいろ恵まれているからプライドが高くなっちゃったのか、どちらにしても、プライドの高い女は、当然のこととして女としてのアベレージはそれなりに高いもの。でもその一方で、そういう女はイザとなると、“破滅的”になりやすい。つまり、問題が何も起きなければ、ひとつひとつていねいに人生を積み上げていけるのに、ひとたび何かの障害にぶつかると、自らその積み上げてきたものをぶち壊したくなってしまう。それがプライドの高い女の、決定的な特徴でもあるのだ。

レゴで他の子供よりずっと見事な“おうち”を作っていたのに、誰かにそれをいたずらされ、一部がくずれてしまったら、突然激怒し、自らめちゃめちゃに壊してしまう。少し修復すれば元どおりになるかもしれないのに。それどころか誰かにそれを「ここがへんだよ」と指摘されただけで、泣きながら壊してしまう。“完璧主義”でもあるために、ちょっとプライドをキズつけられれば、もうゼロに戻してしまわなければ気がすまない。それがプライドが高すぎる女の行動パターンなのだ。

もちろんそのまま諦めてしまわずに、また別の形の“見事なおうち”を組み立てていくのが、エリートかつプライドの高い女の特徴なのだが、“あの人”の場合は、レゴのひとつひとつまで、粉々に壊してしまったから、もう二度と“おうち”を組み立て直すことはできなくなってしまった、そういうことなのだろでも、この事件に関しては、“なぜ離婚するだけではすまなかったのか”という不可解さも取りざたされている。なぜ、そこまでしなければいけなかったのか?という。でもそこがまさに、プライドの高い女ゆえ。

世の女の中で、“恋愛”がもっともヘタなのは、たぶん“プライドの高すぎるエリート女”なのだろう。人を好きになることには積極的で、ある段階まではむしろとても素直で、見事にラブラブになるのに、相手の気持ちがちょっとでも冷めてくると、態度は一変。相手が自分を拒むかもしれないことが許せず、だからふられる前に、自分から関係を壊してしまおうとする。まさに破滅的。でも、本心は別れたくないと思っているから、壊そうとするけど本当に壊してすっきりさせようとはしない。そこがなんとも複雑で、だからもう決定的にダメとなると、今度は急に相手をつぶそうとする。自分も不幸になる代わりに、相手も不幸にしなきゃ気がすまない、みたいな心境になるのだろう。つまり、自分のプライドがガラスのようにくだけ散ったら、その損害賠償として、相手にもどかんと代償を払ってもらう、そういう発想になりがちなのだ。

だから、カオリンの場合は、自分と別れた夫がその後、万が一にも幸せにならないようにと、最終的な手段をとってしまった。“その人”はのちに、“慰謝料もらって離婚するくらいじゃどうしても気持ちがおさまらなかった”みたいなことを語っていたというが、高すぎるプライドというのは、もう損得勘定ではないのだ。これをやってしまったら、自分の人生ぶち壊しで、取り返しのつかないことになるとわかっていても、相手が自分より幸せになることを阻止しようとする。それは、自分のプライドをキズつけたことへの、度を越えた悲しい復讐なのである。でももっと悲しいのは、たぶんこのカオリン、まだ夫のことを愛していたのではないかということ。ただし、本物の愛が“見返り”を求めないものなら、それはもちろん本物の愛ではない。けれど、プライドの高い女が人を愛するとは要するにこういうことで、愛しているがゆえに、自分ともう別れようとしている男とは、存在を丸ごと完全否定してしまうことでしか、別れることはできなかった、そういうことなのだ。

“その人”はまた夫の浮気調査をやっていたというが、もし気持ちが本当に冷めていたら、そんなことはやらない。高い慰謝料をもらうためという見方もあったが、そこまでのエネルギーって、やっぱり嫉妬にかられてしか生まれないものだからである。もう自分を愛してないなら、相手をこの世から追い出してしまいたい、それはプライドの高い女の愛の終わらせ方なのだろう。恋人や夫を殺してしまう女にブスはいないという。つまり、いくら美人でもプライドが高すぎると、女は不幸になる。その実例から、女は多少とも何かを学ぶべきである。

プライドの高い女ほど、結婚から遠ざかる

この世でいちばん恋愛がヘタなのは、たぶん“プライドの高すぎる女”だろう、と、そう言った。そこをもう少し深く考えてみると、恋愛がヘタと言っても、引っこみ思案で男の人と話ができないとか、奥手でなかなか発展しないとか、そういう話じゃない。むしろ恋愛も途中まではスムーズにいきすぎるくらいスムーズにいってしまう。

ただし、お付き合いが始まるまでにつまづきやすいのは、自分からは連絡しない、あくまでも相手から連絡が来ないと納得しないし、カッコ悪いと思うことだろう。そしてお付き合いが始まっても、「どっちのほうがより相手を好きか?」をとっても気にする。何しろプライドが高いから、自分のほうがより相手を好きである形は、もちろん心地よくない。しかも相手の気持ちが少しずつ自分から離れていこうとすると、「私は別にいいのよ、別れても」と心にもないことを言ってしまう。“結婚”に対しても、本当はしたいのに、“保留”になっていることが耐えられず、「もう私たちダメなのかもね」と壊そうとする。まあ、ひとことで言えばまったくカワイくない女になってしまうのだ。結果的に、自らが結婚を遠ざけていること、よくわかるだろう。

ともかくこうやって、客観的に見ていかないと、“プライドの高い女”は自分がそこまでプライドが高いって気づかない。気づかずに歳をとる。そこがなおさら厄介なのである。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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