連載 齋藤薫の美容自身stage2

無趣味な女は幸せか?

公開日:2015.04.23

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。

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「私は無趣味」って胸を張れるだけの自信がある人に趣味はいらない。

今をときめくマリンビスト三村奈々恵さんが、あるインタビューに答えてこんな話をした。皮肉なことに、子供の頃から夢見てきたマリンバでの成功を手にし、脚光を浴びているさなか、夢が叶ったはずだったのに、これが自分の望んできたことだったのか?と激しい虚無感におそわれたというのである。夢が叶ったとたんに、情熱を失う夢とは質が違う。なぜこの人は、突然苦しむことになってしまったのか?じつはその苦しみから解放されたのは、街を歩いていた時。街路樹の葉が光を受けて、とても美しく見えた瞬間、「ああ、私は生きているんだ!」と思い、もやもやが一気に晴れたというのである。凡人にはなかなか理解できないけれども、要は幼い頃から毎日毎日マリンバを上手に弾くことしか頭になかったから、日常的に目にする風景の美しさにさえ今まで心をとめることがなかった。

逆に夢を叶えたから心のゆとりが生まれ、やっとそういう何気ない日常を生きている自分を見つけることができたわけだ。だから、あらためて今の自分の境遇に満足できるし、マリンバで生きていけることを幸せに感じられたのだろう。そこまで聞くと、何となくわかってくる。まだ自分の進むべき方向が決まらない人には、子供の頃から“ひと筋”に打ち込めるものがある人がとてもうらやましいが、ずっとひとつのことに打ち込んできた人は、街路樹の佇まいにも感動してしまうほど、心が一点に集中していたわけだ。悲しいほどすごい集中力。とてつもない緊張状態。この人には、趣味と呼べるものがこれまでひとつでもあったのだろうか?とふと思う。趣味もマリンバですと言ったかもしれないが。「趣味はありません。今は趣味なんか持っていなくてもいい。ないほうがカッコイイと思うし……」そう言ったのは、めざましい活躍を見せる歌舞伎役者だった。

「趣味は?」と聞かれて、多くの人はともかく何か言わなきゃと、「読書」とか「音楽鑑賞」みたいな答えを探してきたりする。趣味がないなんてカッコ悪いと思うから。何も趣味を持たないと、薄っぺらい、つまらない人間と思われそうだから。でも、言う人が言うと、「趣味はない」ときっぱり言い切るほうがよほどカッコイイ。少なくとも今は打ち込むべきものがある、だから自分が一人前になるまでは、趣味なんかいらない。その潔さがまずカッコイイ。無趣味にも胸を張れるだけの自信があるわけで、それ自体カッコイイ。

またそれは、世の中の人がめったに手にできない心の充実、かけがえのない幸せの証だと思う。言い換えれば、“充実しきった無趣味”って並外れた才能を持った人にしか味わえない特権なのだ。おそらくは、自己表現そのものを仕事にして成功しているからこそ、つねに感性をフル稼働し、表現のアウトプットができている、だからそれ以上の趣味を持たずとも心が満たされてしまっている状態。そういう意味で芸術家は、人には真似できない幸せを手にしていると言っていいのだ。

ゆえに人は、趣味をそのまま仕事にできるような仕事に憧れるのだろう。それができないから趣味を持とうとするのかもしれないし。仕事で自己表現できないその欲求不満を趣味にぶつける、それが仕事と趣味の正しい関係。いやもちろん、芸術性のかけらもなくたっていい。その仕事が好きで好きで、趣味の入り込むスキがないというのは尊いこと。めったやたらには入っていけない境地。そこまで行き着けるって大したものだし、人間そういう時期も必要なのじゃないかって思う。その境地まで一度到達した人が、やがて趣味を持つとスゴイ。本当の意味で人生を輝かせるような趣味を遊ぶことができるだろう。だから一度、“無趣味の境地”に行き着いてみてほしい。趣味が人生を豊かなものにするなら、そこまで行った人だけが本当の趣味に出会え、人生を100%楽しむことができるはずだから。

ちなみに無趣味な女にはもう一種類いる。恋愛に忙しくて趣味どころじゃない“恋愛体質の女”が。やりたいことはたくさんあるが、ひとまずこの恋愛が片づかないうちは集中できないと、後回しにする。けれど恋愛ばかりは“無趣味な女”にあまりいい査定をもたらさない。相手に気持ちが集中しすぎてどうしたって“重たい女”に見られるからである。「今日はダンスのお稽古があるから」と、“会えない日”を自ら作っておかないと、女はそれだけで退屈な女に見えてしまう。毎日恋人と会う準備がばっちりできている無趣味な女はたぶんモテない。それだけは覚えておくべきだ。でもそういう恋愛体験が、感性を鍛え、やがて趣味を持った時の幸せを重厚なものにしていくのは確か。だから恋愛もちゃんとしておくこと。いつか趣味で幸せになるために。あー忙しっ。

恋愛では自分の趣味にヤキモチを妬かせる女になること

恋愛で頭がいっぱいだと、趣味に走る時間と心のゆとりなど生まれない、でもだからよけいに恋愛がうまくいかなくなると言ったけれど、いわゆる“無趣味な女”が男の目にどう映っているのかを、ここであらためて考えてみた。趣味って意外なほどに生きるエネルギーをたくさん使うと言ったけれど、恋愛体質の女って、そのエネルギーが恋愛にすべて行っているように見えるから男は引くのだ。

ましてや恋愛の迷い子は生きていく上でも道に迷っていて、だから趣味するゆとりがないのだということが男の目にも映ってしまう。どこか落ち着きなく、地に足がついていないように見えてしまう。勢い、恋愛には熱心でも、基本的な日常生活を営むエネルギーが不足しているかに見えてるから、たとえ恋愛そのものはうまくいったとしても、結婚相手としては不安材料をけっこう作ってしまう。そこが恋愛体質にして無趣味な女の泣きどころなのだ。

女だって趣味に一生懸命な恋人に対し“その趣味と私とどっちが大事なの?”なんてヤキモチを妬くように、趣味と恋愛は脳の中でほぼ同じエリアを奪い合う要素。だから多趣味な女、趣味に生きる女のほうが、異性の目にはパワフルかつ神秘的に見えるということなのだ。少なくとも恋愛では自分の趣味にヤキモチを焼かせるような女になること。そこが大事。

Edited by 齋藤 薫

公開日:2015.04.23

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