
人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。
女が起こす事件は今どきいっぱいあるけれど、この事件だけは何か簡単にはやり過ごしてしまえないものがあった。他でもない、あの“三橋歌織”が引き起こした事件である。もちろん出来事そのものも強烈だったが、公判の内容も驚くべきもの。重要なのは妻が名門女子大出、夫も外資系金融会社に勤めるエリート夫婦だったこと。三橋歌織被告がちゃんと“美しく”洗練された女だったことは尚更ひっかかった。美しくあろうとする女は、たぶんこの世でいちばん犯罪を起こさないはずである。美しくあろうとする女は、当然のこととして人一倍向上心が強く、幸せを掴み取ろうとする握力も強い。何より、自分をちゃんと大好きだから、自らをそんな立場に追い込むわけがないのである。ましてや、お嬢さま学校を出てきたお嬢さまが、なぜ今まで築きあげてきたこと、目指してきたことを捨てきれるのか?不思議でならなかった。もちろん“DV”がひとつの要因になったことは知っている、それにしても……と。
しかし“判決”の日の三橋歌織被告の様子が伝えられた時、何か初めて腑に落ちる気がした。彼女はその日、上下ともマッ白の装いで現れたというのである。しかもそれは罪を犯した人の白とは言い難い、スパッツのような白いパンツに、スポーティだけれどちゃんとリッチな印象のあるスタンドカラーのベスト、インナーまでは定かではないが、ともかくカジュアルだけれどすべてマッ白なスーティングは、かなりなオシャレで派手である。しかも170cmを大きく超える長身だから、まさしくモデルみたいな迫力が出て、被告の登場が、そこにはまったく場違いな一瞬の驚きを巻き起こしたのは間違いない。
罪を犯した者としての懺悔の気持ちのアピールと、自分自身を浄化したいという気持ち、そしてこんな立場になっても尚、「私は三橋歌織!」という自己アピールもあったのかもしれない。しかしそれが白いスーツやワンピースでなく、全身“白”のカジュアルリッチであったところに、ものすごい計算が見てとれる。白も正装度が高すぎると、不謹慎にも野暮にも見えるから。ドレスダウンしながら、白のインパクトだけはきっちり残したわけだから。
いずれにせよ仮に“反省”があったとしても、それとは別のところで、美しくありたい女のサガが出てしまったのだろう。だからふと感じた。この人に、そこまでさせてしまったひとつのベクトルは、ひょっとすると“女としてのプライド”だったんじゃないかと。別れないと言っていた夫が、他の女性に走り離婚を自ら申し出てしまったのは、プライドが許さなかった……赤い服が私は負けないという勝負服なら、全身白の装いって、やっぱり女の自尊心を託す勝負服に他ならないのだから。女はやっぱり、何があっても女、なんである。
「赤の服が負けん気の勝負服なら、白の服は自尊心を託す勝負服である」
Edited by 齋藤 薫
公開日:2015.04.23