
人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。
“傾国の美女”という言葉がある。これは、王様が惑わされて、国を滅ぼしてしまうほどの美女という意味。楊貴妃などはその典型、別の意味で、フランス革命を引き起こしたマリー・アントワネットやマルコス政権を潰したイメルダも傾国美女のひとりに数えられるのだろう。そういう教訓があるからか、現代における権力者の妻は、とても慎重になっている。女に反発をくらったら終わり、と。だから“傾国”の資格充分のカーラ・ブルーニさえ、日に日に着る服が大人しくなる。
じゃあ日本の権力者妻たちはどうかと言えば、小泉さんは“妻”をもたなかったし、安倍さん以降はあまりに短くて批判している時間もなく、大変にカゲが薄い。もちろん男の権力が昔のように絶対のものじゃなくなり、とても中途半端だからこそ、権力妻もカリスマになれないし、うかうか目立つこともできない時代になったのだ。
そんな中で、久しぶりに絶大な注目を浴びているのが、ミシェル・オバマ。もちろんこの先評価がどう変わるかわからないが、“奇跡的”な黒人大統領の誕生も、この人が“権力者妻”の正解を見事に体現したことが案外大きかったとされる。権力者の妻の条件……それは、その権力者よりも、さらに賢くなければいけないということ。それでこそ、権力者の権力はとりあえず揺るぎないものになるのだと、この人を見て思った。また、基本的に美しくなくてはいけないが、度を越して美しすぎてはいけない。何というか、自分ばっかりキレイを追求しているタイプのキレイはダメで、周囲を心地よく幸せにするためにこそキレイになっているような印象を与えるキレイじゃないと。
しかしそれ以上に重要なのは、服のセンス。ファッションがダサイと、それだけで夫の支持率が1割2割減ってしまうくらい、それは重要。とりわけ“妻”の立場で夫を支える場合、能力を示す上でファッションは最大の決め手となるからだ。言葉で能力を誇示すると、やっぱり反発を買うわけで、女が黙って知性を示すのには、趣味の良さ、バランス感覚の良さを語る知的なファッションセンスがいちばんなのである。もちろんいかにもな金目のファッションはダメ。だから世論が口うるさくなっていくほど、権力者妻は逆にカッコイイ女になっていく。ブランドものをこれ見よがしに着ない、安いものを高そうに見せる能力を含めてのセンスが、そうやって“妻”を育てていくのである。
そう、一般的にも、口うるさい世の中が認めるのは、今このタイプ。周囲を心地よくさせるキレイと、有能さを示すファッションセンス。そのふたつを併せもつ女が、じつは最強だ。センスは今の時代、人柄の良さと、賢さとの両方を語るから、それが“見た目”にそっくり現れている女はどんなに意地悪な環境で矢面に立たされても、なんとか切り抜けて上手に生きられる。みんなを黙らせるたったひとつの女のタイプ、覚えておこう。
「今どきは、人柄の良さと賢さをファッションセンスで示せる女が最強」
Edited by 齋藤 薫
公開日:2015.04.23