
人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 毎月第2水曜日更新。
誰が見ても“もったいない結婚”をして、そしてあまりにも気の毒なことになった矢田亜希子が“復帰”。元夫がこれから裁判ということもあって、とても慎重だが、当然のように日本中に同情ムードがあり、ひとまず世間はその復帰をあたたかく見つめるのだろう。一児の母、そして31歳。そう、この人はまだ31歳なのだ。別に、すべてをイチから始めたっていい年齢。というより、この人にとってはこの“出直し”がじつは重要な意味をもっている気がするのだ。
20代で清純派としての成功をおさめてしまうと、どういう30代女優になっていくかがけっこう難しいところ。だいたいがこの人、“最後の清純派”と言ってもいいほど、あとに控える女優たちはひとクセもふたクセもある。そもそも日本にはもう清純派はいらなかったりするのかも。だから、いろいろあって傷ついてこそ、30代の復帰は女優として再生のチャンスとなるのである。逆に言えば、30代って、そのくらいドラスティックな出直しができてしまう年齢なのだ。180度違う方向へ行くのも可能な。“幸不幸”のアンケートを大規模にとると、一生のうちで人がいちばん幸せなのは“30代”。10代でも20代でも、また40代でもなく30代。10代のようにテストもなく人と比較されず、20代のように恋に仕事に不安定でやみくもに悩まない。また40代のように家族のことで振り回されない、30代くらい、じっくり正しく“自分をやれる”年齢はないのである。
じつはそれも、10代20代で良くも悪くも“自分の能力”を知ったことで、自信がもてたり、逆に“自分の限界”を思い知り、諦めるべきことはもう諦めている。そのうえで何かを始めるから無駄な挫折もなく、いたずらに迷うこともなく、知らないうちにやるべきことをきっちりこなし、それがいちいち血となり肉となり、人としての体力や筋肉がしっかりとついてくる。30代って人生においてそういう時代なのだ。だから、20代であたふたと決めてしまった進路にしがみつかず、30代の今こそ、自分の直感を信じて別の道に思いきって踏み出すにはまたとないタイミング。30歳で方針を変えたり、何かを始めたりじゃ遅くない? なんてとんでもない。じつは身も心も能力も充実し、研ぎ澄まされている年齢だからこそ、何かを始めると成功の確率はその分高くなる。
学校を出て社会に入るのは、20歳前後。でもそれ、人生100年の今は早すぎる。20代は社会に出てからの学校。失敗して不得意科目も見極めて、こんな男はヤバイし、こんな女はヤバイ、近寄るべきじゃないタイプも学習したうえで、30代でおもむろに“自分を始める”。それがいい。30代の転職、離婚、全然OK。いやむしろ最大の好機。だから30代でやり直そうとする女は、不思議なオーラを発するもの。出直す30代女はだから眩しい。
「30代でやり直す人が眩しい。こんなに自分を正しくやれる年齢はないから」
Edited by 齋藤 薫
公開日:2015.04.23