1. 「卵子凍結保存」の実情とは?【高齢出産、不妊治療を考える】

2017.05.28

「卵子凍結保存」の実情とは?【高齢出産、不妊治療を考える】

「子どもは欲しいけど、今は仕事が優先……」そんな女性の選択肢を広げてくれた「卵子凍結」の実情について、TVディレクター/ライターの藤村美里さんに教えていただきました。


香川氏は、2004年から体外受精の症例数が世界でいちばん多いといわれる施設に勤務し、高齢の不妊治療患者たちを担当。34歳以下ならば2割の出産率であるのに対して、日本の高齢不妊患者の多さ(平均年齢39歳)から、全体の体外受精の治療成績を1割に半減させている事実に驚愕したという。

そこで、体外受精技術を高めるより、「生物として母子ともに安全に産める時期」の啓発活動を高齢不妊予備軍の若い女性たちへ行ったほうが、経済負担もなく安全に、妊娠出産育児に臨めると気づき、がん女性の妊孕能温存研究や未受精卵子の凍結保存にかかわるようになった。浦安市のプロジェクト等にも参加している。

「卵子凍結技術が確立した2000年当時『卵子凍結なんて高額で危険なことをせずとも、社会が変わればいいだけ』という有識者のコメントが散見されました。でも、16年が過ぎた今も“産みたい人が安全に産みたい人数を産み、働きながら安心して育てられる社会”にはなっていません。母子ともに安全に妊娠出産できる年齢や女性特有の病気やキャリア形成期が重なることを知らず、生活と仕事、生殖のバランスやプランニングについて知る時期も取り組む時期もすべてが放置されて手遅れになっています

浦安市が行っている卵子凍結保存プロジェクトでは、対象年齢を34歳以下としているが、香川さんのところに相談に来る女性に年齢制限はない(実施する場合は年齢制限あり)。そのため、35歳以上が7割、2割が40歳を超えてから卵子凍結保存について相談に来るのだという。

「年齢制限を設けていない当施設では、半分ほどが社会性不妊の方で、健康不安がある方が3割、医原性(がん)が2割となっています。卵子凍結保存を本気で検討している女性たちの実情は、“キャリアを優先させ産みどきをコントロールしようとするわがままな女性”という一昔前のイメージとは違います。死なない程度の病気を抱えていたり、専門職で仕事を抜けられなかったり、誰もが該当者になりうる普通の女性たちなのです」

「もし知っていたら……」高齢不妊治療経験者からの声

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今回のアンケートで、特に多くの声を寄せてくれたのも35歳以上の女性たちだった。

「私は出産適齢で結婚できず、36歳から不妊治療をしたが、授かることができなかった。もし、知っていたら、20代で卵子凍結を行い、その後にかかる莫大な不妊治療費用と精神的苦痛を和らげたかった(44歳・会社員・東京都)」

「40歳位までなら子供はすぐできると思っていました。結婚し子供が欲しいと願うようになってから現実を知りました。不妊の原因はさまざまですが、母体となる女性の年齢がいちばん大事であることを医師からも聞かされ、授かることができるのか毎日不安との戦いです(36歳・職業、居住地の記載なし)」

「社会的・経済的な産める環境を手に入れてから妊活をするのでは遅すぎると感じている。年を取ってからの不妊治療は成果を上げにくく、先天的な障害のリスクも高くなる。子宮のコンディションは薬で整えられても卵巣と卵子が若返ることはない。まだ独身でお付き合いしている人もいなかった頃に卵子の老化の情報をすでに知っていて卵子凍結の仕組みが確立されていたとしたら、当時すでに子どもが欲しかったので卵子凍結させていたと思う(35歳・無職・千葉県)」

なかでも多かったのは、年齢とともに妊孕力(妊娠できる力)が衰えていくという教育の必要性を訴える声だ。卵子の老化についての報道が増えたのは、ここ数年。“生理があるうちは40代でも出産できる”という勘違いをしていたという声も少なくない。

「若いうちは仕事やプライベートで忙しく卵子の凍結に大金を支払うことは考えられなかったと思う。また、そんなに自分が結婚できないであろうとも考えていなかった。焦りだしたのが35歳くらいだった。結婚できるのか、妊娠できるのか。20代ではそんなこと考えられなかった。なので、不妊に対する教育を早いうちに行うことは大切かと。私の学生時代は生理について説明はあったが、卵子の数が生まれた時から減っていくだけとか、卵子が老化するとかまったく教えられなかった(41歳・無職・栃木県)」

「不妊治療に対して、抵抗があった。すべて知識のなさからと考える。当たり前の知識として社会で知られるべき。学校教育、親世代、会社、行政の積極的補助職など。ただいま治療中で、妊娠中だが、同年齢、また年下の未婚友人たちへは積極的に必要性を1度は伝えるが、働きながら婚活で疲弊している彼女たちにとっては、二の次の問題。私も働きながら、何年も婚活してきたから、よくわかる(42歳・無職・島根県)」

浦安市のプロジェクトにも、40代の先輩女性から卵子凍結を勧められて来たという20代女性がいた。だが、実際に凍結すればいいという話ではない。

実施している医師たちは「『実際に、自分が卵子凍結保存を実施するとしたら……?』そう考える機会をつくることも目的の1つで、啓蒙活動でもある」と話していた。生存率(出産まで至る割合)に限りがある卵子凍結保存を、すべての女性に勧めているわけでは決してないのだ。ただ、自分の体に無知であることほど、怖いことはない。

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