1. ”自分らしく”生きてはいけない?!【齋藤薫】

斎藤薫の美容自身2

2017.12.13

”自分らしく”生きてはいけない?!【齋藤薫】

人気連載「斎藤薫の美容自身 STAGE2」。 今月のテーマは”自分らしく”生きてはいけない?!について。毎月第2水曜日更新。

”自分らしく”生きてはいけない?!【齋藤薫】
齋藤 薫
ビューティジャーナリスト
by 齋藤 薫

自分らしく生きていい人といけない人……

「自分らしく生きよう」……。 何という無責任な提言だろう、少なくとも私はこう思ってきた。あなたはこの「自分らしく」の意味を実感としてわかっているだろうか? 言うまでもなくこの言葉、女性向けのアイテムのCMコピーやメッセージに頻繁に使われてきた。「自分らしく生きましょう」と。でもそう言われて、ハイハイわかりました、そうしましょう、と思えるのだろうか。

「自分らしく」……それは、周囲に惑わされず、 時代の気分に流されず、自分をしっかり持っていること。それだけを捉えれば、”自分らしく生きる”ほうがいいに決まっている。でもこれ実は、極めて危険な言葉。自分らしさ=自分の思うまま、と訳してしまうと、ただただ好きなように生きてしまえばいいのだという意味にも捉えられる。この仕事がイヤ、あの職場もイヤ、その上司がイヤ……そうやって転職を繰り返すことになるかもしれないし、自分だけが正しいと思い続けて誰からも理解されず、疎まれるかもしれない。そんな生き方で、人生うまくいくはずがない。でも自分らしくという提案は、そういう誤解も充分生んでしまうのだ。 

人間、ルールの中で生きなければいけないし、思い通りにいかないことだらけ。人に合わせて、人に従って、時には人におもねらなきゃならないこともある。 それを、自分らしくという言葉でごまかしちゃ絶対にいけないのだ。 

だからはっきり言いたい。自分らしく生きていいのは、以下の条件をクリアした人だけ。ちゃんと自分を抑えて抑えて、世の中の理に従って生きることができて、なおかつ辛くても悲しくても、一生懸命に事に取り組み、結果として人に気に入られ評価され、それなりの実績を作れた人だけ。自分らしくとは、そういう人が、”迷った時に思い出す言葉”に他ならないのだ。 

だから今、最もこの言葉がハマるのは、ズバリ武井咲という人である。言うまでもなく10代の頃から第一線で活躍してきて、激しい新旧交代の中をも生き抜いてきた。それどころか年齢とともに女優としての地位もちゃんと確立させ、周囲の評判もよく、さらに、ちょっと早すぎたのでは? とさえ言われた「黒革の手帖」での、クラブのママ役の演技が業界人を驚かせ、23歳の若さで大女優の実力と風格を見せつけた。ところがまさにそのタイミングで、なんと結婚・妊娠を発表! 世間をアッと驚かせた。 

当然、仕事の予定はこの先もたくさん、相当な数のCM契約もあるわけで、本来なら批判されてもおかしくないのに、世間の反応は概ね祝福ムード。いや、厳密に言えば、”大胆不敵な選択に確かに驚かされたけれど、でも「よくやった」”という肯定的な意見が大半だった。ひとえに、自分は自分の人生を生きますという宣言のような勇気の決断への拍手。若気の至りには、決して見えなかったからこその拍手なのだ。 

そもそも”25歳までは恋愛禁止”というルールが事務所にあるとの噂も、以前から漏れ聞こえてきていて、これを意識してか、「自分の人生だから」というコメントを発している。正直言って23歳の女性が、「私は自分の人生を生きます」という言葉を使えること自体稀だし、普通その若さでは言葉にもそう重みは感じないはずなのに、この人の「自分の人生」は相当な重みがあった。今回の決断でそれが本物であることがわかったのだ。ましてや以前から、「早く結婚し、早く出産したい」と語っていたことも、今振り返るとこの人のブレない意志を感じさせ、尚更あっぱれと納得させられる。 

いずれにせよ”突然のできちゃった婚”も、自ら全く悪びれることなく、100パーセントゆるぎない覚悟と決断が見えてくるから拍手を浴びた。迷いがあったとしても、結果として最も自分らしい決断を下したことがわかるから。これこそが「自分らしく生きること」。そこに皆あっぱれと思ったのだ。

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あなたが生きて行く上で 絶対譲れないことは何なのか?

自分は何のために生きているか、何をテーマに、何を目的に生きているか? 最初からわかっている人間はそうそういない。40代になっても50代になっても一向に見えない人は見えないのだ。無理もないと思う。人間そうそう簡単に、自分の人生を生きている自覚など持てない。正直言って、自分らしさって何なのか、明快に語れる人も少ないと思う。多くの人が曖昧なままで生きてしまっている。恥ずかしながら、いい年をして私自身もそう。自分が最終的にどうなりたいのか、自分の人生のテーマとは何なのか、曖昧なまま生きてしまい、だからいつまでたっても、自分の人生にぼんやりとした手応えしか得られないのかもしれない。必然的に”自分らしさ”も見えないのだと気づいたしだい。 

奇しくも今、女性として高い地位につきながら、長年勤めた一流企業をきっぱり辞める人が目立っている。それも次にどこに行くか、何をするか、未定。自分が、本当は何をしたいのか、それを見つめるために辞めるという人が。おそらくは、これまでの日常は忙しすぎて自分の心の中を見つめ直すことができずにいたのだろう。けれどもこういう人は、キャリアとスキルと、自分は何に対してもしっかり頑張れるという自信、この3つがあるから、先が決まっていなくても改めて自分の力で大海に船を出していけるのだ。そのまま企業に残ればもっと上を目指せるのに、野心よりも、自分の人生を見つめ直したいという決断ができること、それ自体がこの人にとっての”自分らしさ”なのだろう。実績を残しながら、今の生き方は自分らしくないと潔く自分の未来を変えられる彼女たちこそ、自分らしく生きていてカッコいい。

そういう意味では、ダイアナ元妃も、マドンナも、安室奈美恵も、見事に自分らしく生きていて、ブレがない。だからその生き方だけで人の心を打つのだ。 

じゃああなたの場合はどうだろう。自分にとって、絶対に譲れないことは何なのか? 自分の人生において最優先させたいことは何なのか? それをまず明快にしてほしい。普段、じっくり考えることがないから見えてこない人生の目的。この際、本気で考えてみてほしいのだ。「何よりも幸せになることが最優先」「誰かの役に立ちたい」「ともかく一生仕事をし続けたい」「誰も嫌いな人がいない、だから誰ともうまくやっていく、それが私の人生」「愛し愛されること以上に大切なことなんかない」「お金が全て」「何が何でも成功者になること」……なんでもいい。なんであれ、ブレないことがあるなら、それこそが「自分らしさ」。でも人間、相当に強い信念を持っていなければ、ブレブレに生きてしまう。ブレるのが普通。つまりは、「自分らしさ」などそう簡単には生まれないものなのだ。

だからこそ「自分らしさ」という言葉は危険。ブレブレに生きていて人生に何の手応えもなく、ただぼんやり生きてしまったり、明らかに間違った生き方をしてしまっているのに、「私は自分らしく生きているから、これでいいの」と自分に言い訳してしまうことが極めて危険なのだ。だから、絶対ブレない自分ができ上がるまで、「自分らしさ」という言葉を使うのはやめよう。いっぱし、正しく生きているつもりになってしまうのは、本当にまずいから。人生では必ず二者択一をしなければいけない時がやってくる。その時、自分が「自分らしさ」に気づいていないと本当に激しく悩み、そしてゆらゆらするから幸せが逃げていく。それを避けるためには一日も早く”自分らしさ”を確立すべきなのだけれど。自分の人生を自分で決め、その方向目がけ、ブレなく進む女が、結局は幸せを摑むのだから。

「自分らしく生きましょう」は、極めて危険な言葉。 自分らしさ=自分の思うまま、ただただ好きなように生きてしまえば いいのだという意味に捉えると、必ず不幸になるから

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齋藤薫 美の格言15

齋藤 薫
齋藤 薫
美界のご意見番。VOCE連載のほか、美容や女性をテーマに多くの女性誌で執筆中。精神性の深さが多くの女性から支持をえている。