1. 体幹と骨盤の本当のところ【体幹トレーニング、骨盤矯正はできる?】

2018.01.13

体幹と骨盤の本当のところ【体幹トレーニング、骨盤矯正はできる?】

近年、あらゆるワークアウトの現場や記事では、体幹と骨盤の重要性を説き、実際に強化メニューを実施・紹介しているが、私たちは体幹や骨盤について正しく理解し、適切なトレーニングを行っているだろうか。今、基本に立ち戻って検証する。

体幹と骨盤の本当のところ【体幹トレーニング、骨盤矯正はできる?】
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今こそ、体幹と骨盤とは何かをはっきりさせよう!

「体幹を鍛える」「骨盤の歪みを修正する」トレーニング法が巷に氾濫している。しかしそれらの大部分はイメージ先行。実際にはどこを指し、何を目指して鍛えるべきかを再検証しよう。

“万能”イメージだけが先走っている「体幹」と「骨盤」

体幹(コア)トレーニングや骨盤矯正の類がブームとなって久しい。今ではあらゆる場面で体幹強化の重要性や骨盤の歪みの恐ろしさが語られ、みなこぞって体幹・骨盤トレーニングに励んでいる。
たしかに体幹と骨盤は、スポーツ能力の向上や姿勢の安定、健康的な日常生活を送るために重要な部位であり、強化・鍛練するのが非常に大切なことに間違いはない。
しかし現実には、「体幹」とは具体的にどの部分を指すのかについては、身体の専門家たちの間でも意見が微妙に異なるし、「骨盤」に至っては、どんな構造でどのように動くかをきちんと説明できない(理解していない)骨盤運動提唱者すらいるというありさま……。
指導・提唱する専門家がこの程度なのだから、我々が正しい知識もなく“身体によさげ”なイメージに踊らされるのも仕方ないことかもしれない。
「骨盤に注目すること自体は悪いことではありませんが“多くの人の骨盤は歪んでいて、その歪みこそがあらゆる不調の原因”などと脅して煽るやり方には非常に疑問を感じますし、かなりのエクササイズ経験や知識のある人までもが、疑いもせずにその煽りに乗せられて、無邪気に実践してしまう風潮に強い危機感を覚えます
と憂慮するのは、整形外科医であると同時に、ピラティス指導者でもある武田淳也先生。

体幹とはどこなのか?骨盤の構造とは?

では実際、体幹(コア)とはどこの部位を指し、骨盤はどのような構造になっているのだろうか。
「医学的には体幹とは、身体の幹にあたるところで、頭部や手足をのぞいた胴体部分のこと。一般的な体幹トレーニングとは、その胴体にある骨格筋を鍛えるもので、脊柱に近い部位を集中的に鍛えるメソッド。“体幹”と“コア”を同じ意味で使って、体幹トレーニングをコアトレーニングと呼ぶ場合もあります。ただこのときの“体幹”や“コア”を胴体のどの部分と捉えるかが、指導者やトレーニング法によって微妙に違い、少なからぬ混乱を招いている気がします。
ちなみに、ピラティスにおける“コア”とは、胸郭(肋骨)の下部から骨盤にかけてのお腹と背中を言うことが多く、とくにこの部分のインナーマッスル(深層筋)に注目します。コアの深層筋とは、お腹の前から横を覆う腹横筋、腰椎ひとつひとつをつなぐ脊柱分節筋(おもに多裂筋)、下部肋骨と胸椎を結ぶ横隔膜、恥骨と尾骨をつなぐ骨盤底筋を指し、体幹トレーニングと同義で使う他のコアトレーニングに比べると、より範囲を絞り込んだ部位を“コア”と呼ぶ傾向があります。

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次に骨盤の構造ですが、そもそも骨盤とは大腿骨と脊柱の間で身体を支えている強固に一体化した一群の骨の総称。左右一対の寛骨(腸骨・坐骨・恥骨が一体化したもの)、仙骨(5個の仙椎が癒合したもの)、尾骨(3~6個の尾椎が癒合したもの)で形成されていて、強固に結合して一体化しているのですから通常、骨盤自体が大きく『歪んだり』『開いたり』することは考えられません。たしかに出産時には特別なホルモンが出て骨同士を結合する靭帯がゆるんで広がりますし、事故などで骨盤に損傷を受ければ歪むこともあるかもしれませんが、それは非常に特殊なこと。
そして、たとえ骨の結合部分のミリ単位で動きがあるとしても、柔らかいバンドを骨盤周辺に巻くことでそれらを“矯正”できると断言するのは、明らかに言い過ぎでしょう」(武田先生)

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骨盤固定は諸刃の剣。激しい骨盤回しはケガの元!?

骨盤そのものが歪んだり、開いたりしないことはわかった。でも骨盤全体が前後、左右に傾くことで姿勢が歪んでしまうのは事実。その歪んだ姿勢を矯正するために“骨盤を固定する”という手段は、アリなのでは?
「正しい位置に骨盤を安定させるのであれば『正しい(歪みのない)姿勢を取った時のあるべき骨盤の位置』を覚える、あるいは骨盤に意識を向け正しい姿勢を心がける、ということでは有効だと思います。
しかし、実際に正しい位置に骨盤を安定させるのは専門家でも難しいし、伸縮性のある柔らかいバンドでしっかり固定することは不可能。さらに、正しい姿勢を取るために常にベルトなどで骨盤を固定していたら、本来骨盤を支える筋肉は、ますます弱ってしまいます」(武田先生)
では骨盤を支える筋肉を鍛えるための骨盤回し系運動は?
「骨盤は固い骨ですから、骨盤そのものを回転させることはできません。つまり“骨盤回し”とは、骨盤に繫がる大腿骨や腰椎との間にある関節の動きがメインになりますが、この動きだけでは骨盤内の臓器を支える筋肉である“骨盤底筋”には、しっかりとした刺激を与えることができません。それどころか激しく腰部を動かすことで、日常動作でも過度に動いて負担がかかりやすく、椎間板ヘルニアや腰椎分離症などの障害を起こしやすい腰椎4~5番関節から仙骨に過大な負担をかけることになり、故障の原因になることも」(武田先生)
骨盤運動のキモは骨盤の骨群自体より骨盤底筋にあったのだ。

機能を理解すれば鍛える目的と正しい鍛練法がわかる

骨盤底筋とは、文字通り骨盤の底部にある筋肉のこと。おもに恥骨と尾骨の間を走る複数の筋肉から構成され、『骨盤の横隔膜』とも呼ばれている。膀胱や腸、女性の場合は子宮などの内臓を支える筋肉で、体幹(コア)の一番下で他の筋肉とも連動し姿勢を安定させる役割を持つ。『ショーツのクロッチ(股部の布が二重になっているところ)に肌が当たる部分の奥にある筋肉』というと、イメージしやすいだろうか。
「ピラティスでは、骨盤(骨盤底筋)は、コアにある筋肉(インナーマッスル)の一部と考えます。ピラティスに限らず体幹(コア)トレーニングの目的は、体幹部である腰や骨盤などを支えるインナーマッスルが『正しく相補的に働くようにすること』です。インナーマッスルが正しく働けば、身体の軸が安定し、体幹部の筋肉に包まれている内臓の働きもよくなります。そしてしっかりとした土台(体幹)から伸びる手足や頭は、自由自在に動かすことができ、激しく動いても高いバランス力が保たれ、その動きが効率的に最大のパワーの発揮へとつなげることができるのです。
そのためインナーマッスルのトレーニングは、パワー増強が目的の、腕や足の筋トレで行う『その筋肉に負荷をかけて激しく動かす』トレーニング法とは異なります。インナーマッスルをスムーズに連動して姿勢を安定させ、その周囲の部位を動かすことでわざとバランスを崩してやっても身体の軸がブレないようにキープする方法を、『身体(神経と筋肉)に覚えさせる』ことこそトレーニングの目的。骨盤と体幹の仕組みや役割を理解すれば、正しい鍛練法も自ずと見えてくるのです」(武田先生)

形だけの体幹トレには、何の効果も期待できない

「ピラティスだけでなく体幹(コア)トレーニングのほとんどは、他のエクササイズに比べて動きが緩やかで、一見すると非常に楽そうな印象を受けますが、正しく行うと、実はハードです。正しいフォームと骨盤を意識して行うことこそ、体幹(コア)トレの最大のポイントです」(武田先生)

教えてくれたのは・・・・・・
武田淳也先生

スポーツ・栄養クリニック院長、PILATES LAB代官山・福岡代表、整形外科医・MOTOR CONTROL ビヨンドピラティス エデュケーター
日本整形外科学会認定専門医、認定スポーツ医、認定運動器リハビリテーション医、認定脊椎脊髄病医、日本体育協会公認スポーツドクター、日本医師会認定健康スポーツ医、日本抗加齢医学会認定専門医、日本ピラティス研究会会長。ピラティスの運動指導を治療に取り入れたスポーツ・栄養クリニックを開院して6年。
◆PILATES LAB(http://www.pilates-lab.com/)
◆スポーツ・栄養クリニック(http://www.clinicsn.com/

撮影/大坪尚人、取材・文/若尾淳子
2010年11月号「HBR」より

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2010年3月~2012年12月に講談社から刊行された、美と健康を専門にした月刊会員誌。正式名称は「ヘルス&ビューティー・レビュー」。医師、研究者、医療専門家、美容家への地道な取材をもとに作られた、正確で濃い内容の誌面で評判になり、会員数約4000人以上を誇ったが、惜しまれながら休刊。