1. iPhoneユーザーが苛立つ「速度制限」の正体

2018.01.08

iPhoneユーザーが苛立つ「速度制限」の正体

iPhoneならではの機能など高性能さを持つ反面、旧機種の動作速度の遅さに対して「新機種への買い替えを促そうとしているようにもみえる」などという憶測も飛び交っているiPhone。そんなiPhoneの「速度制限の正体」や「バッテリー問題」について、ジャーナリストの松村太郎さんに解説していただきました。

iPhoneユーザーが苛立つ「速度制限」の正体

「iPhone旧機種の動作速度が遅くなっているのではないか」ーー。ユーザーの間で持ち上がった噂は、ベンチマークソフトを手がける企業によって検証されただけでなく、12月20日にはアップル自身もそのことを認めるに至った。いったいその意図は何だったのだろうか。また我々にとって、どれだけの影響があるのか。

古いiPhoneは、なぜ性能を制限されるのか?

アップルは2017年1月に配信を開始した「iOS 10.2.1」から、一定条件下でプロセッサの性能を制限する機能を導入したことを認めた。メディア各社に対して送った書簡の中で、その仕組みと理由について次のように触れている。

iPhoneに搭載されているリチウムイオンバッテリーは、常に同じ性能を発揮するわけではなく、気温が低い環境やバッテリー充電が十分でない場合、あるいは長年使うことによるバッテリーの経年劣化によって、十分な電力を供給できなくなるという。

そうした環境下で、大量の電力需要、すなわちプロセッサに最大限の負荷がかかる処理を行おうとすると、電子部品を保護するためにデバイスが突然シャットダウンする恐れがある。アップルは、頻繁にシャットダウンすることは、顧客体験全体の低下を招き、またデバイスの寿命に影響すると判断。そのためiOSに、プロセッサの性能を引き下げて大量の電力需要を発生させない仕組みを取り入れたのだという。

アップルによると、前述のiOS 10.2.1から、iPhone 6シリーズ、iPhone 6sシリーズ、iPhone SEの各機種に対して、この機能を採用した。また、iOS 11.2以降では、iPhone 7に対しても、プロセッサの性能引き下げ機能の適用を拡大したことを認めた。

将来的に、前述以外の製品にもこの機能の拡大を計画しているという。つまり、2018年の後半からは、iPhone 8シリーズやiPhone Xでも、こうしたプロセッサの性能引き下げ機能が有効化される可能性があることを示している。

なぜ批判の的になったのか

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アップルは、なぜこの件をメディアを通じて説明したのだろうか。そこには「古いiPhoneの性能を意図的に引き下げ、新機種への買い換えを喚起しようとしているのではないか」との批判を回避する狙いが透けてみえる。

アップルがこの取り組みを始めたのは、顧客体験とデバイスを保護するためであり、あくまで顧客のためを考えて実施したことだと強調している。

それでも、多くの顧客からすると、最新のiPhoneへの買い替えを促すための施策ではないか、という疑いは晴れないかもしれない。その理由は、最新のiPhoneの「価格」にある。

2017年、アップルはiPhoneファミリーの値上げを実施している。iPhone 8シリーズは32GBモデルを廃止し、64GBモデルと256GBモデルの2つの選択肢のみとした。そのため、最も価格の安いiPhone 8 64GBモデルは699ドルとなり、これまでのベースモデルが守ってきた649ドルから50ドルの値上げとなった。また有機ELディスプレイとFace IDを備える次世代型のiPhone Xは999ドルからとなり、日本では10万円以上の価格がつけられている。

2〜3年が経過したiPhoneの性能を制限し、値上げした高いiPhoneの販売台数・売上高を高めようとしている、との批判が上がっても仕方がなかったのかもしれない。

しかし、今一度整理しておきたいのは、この制限機能は、多くの"条件付き"である、ということ。「内蔵バッテリーが気温や充電状態、あるいは経年劣化によって一定の性能を発揮できない可能性があるとき」に、プロセッサの性能を制限して電力需要を抑制するというものだ。iOS 11.2が配信された現在、対象機種はiPhone 6シリーズ、iPhone 6sシリーズ、iPhone 7シリーズ、iPhone SEということになる。

例えば2014年に新機種として購入したiPhone 6ならおよそ3年、2015年に購入したiPhone 6sならおよそ2年が経過しており、バッテリーが劣化している可能性が高い。前述のようにバッテリーの劣化の度合いに応じてこの機能が有効化されるため、多くのユーザーが性能制限を受ける可能性がある

しかし、前述のデバイス全てが影響を受けるわけではない。例えば2017年12月に開封したばかりのiPhone SEであれば、バッテリーは劣化していないため、iOSが性能を制限することはないだろう。ただしそれでも、冬場の日本の屋外であれば、バッテリーが経年劣化していなくても低温環境という条件が加わるため、同様の性能制限が発生する可能性が出てくる。

影響を受ける場面が頻繁に訪れる可能性は低い

また、バッテリーが劣化して性能制限を受ける状態となっているからといって、影響を受ける場面が頻繁に訪れる可能性は低い。

高度なグラフィックスを駆使するゲームをプレイしたり、高解像度のビデオや写真の編集、書き出しなどを行う場合に、速度低下の影響を受けることになると考えられる。しかし、それ以外の時間、性能低下を感じることはないだろう。

iPhoneをはじめとするスマートフォンは、そのプロセッサ性能の高さをアピールしがちだが、実際には動作時間の9割ほどを、低消費電力状態で動作させ、バッテリー寿命を引き延ばしている。特にiPhone 7に搭載されているA10 Fusionは、効率コアとパフォーマンスコアに分かれており、効率コアは名前の通り電力消費を低く保ちながら、メールやメッセージなどの基本的な操作を行えるようにしている。

また現在は性能制限機能の影響を受けないiPhone 8シリーズやiPhone Xに搭載されているA11 Bionicは、効率コアを4コア搭載してA10 Fusionより7割も性能向上させ、また機械学習や画像処理などに専用チップを備えるなど、電力が大量に必要な高負荷状態になりにくい工夫をしている。

プロセッサが進歩すればするほど高性能化とともに省電力化され、この問題の影響を受けにくくなっていくことが考えられる。

アップルはバッテリーにかかわる性能低下の問題に関して、直近で3件の集団訴訟が起こされている。アップルは今回の性能低下の措置を顧客体験とデバイス保護のためと説明しているが、問題はどこにあったのだろうか。大きく分けて2つある。

1つ目は、アップルが1年間もの間、iOSに備わっている性能を制限する機能と、それが動作していることを隠してきた点だ。

今回の問題は12月10日に、米国の大手ニュース投稿サイトであるRedditで持ち上がったことをきっかけにしている。12月18日には、著名なベンチマークアプリ「Geekbench」を手がけるPrimate Labsの創設者John Poole氏が、「iPhoneの旧機種のパフォーマンスの低下がiOSに原因がある可能性」を指摘し、12月20日にアップルが書簡で性能制限を認めた。

アップルにとって、意図的な性能制限に買い換え促進の意図はなかったかもしれないが、説明なしに性能を制限していた点は、顧客にとって不信感をあおる結果となってしまった。

アップルは、バッテリー性能低下が起きる場面、その環境下で何が起きるか、性能制限によって日常利用にどのような影響が起きうるかを、ていねいに説明すべきであったし、いまからでもそうすべきだろう。

また、iOSの「設定」アプリには「バッテリー」という項目が用意されている。せっかくそうしたメニューが用意されているのだから、ユーザーに性能制限モードに入っていることを伝えたり、ユーザーが手動でこれをオフにする機能を付けておいたほうが良かっただろう。ユーザーが「頻繁な再起動」などのリスクを理解した上で性能制限の機能をオフにできる仕掛けを用意していれば、今回の騒動は起きなかっただろう。

バッテリーを交換すれば速度制限を回避できる

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この問題に関する問題点の2つ目は、性能制限に陥ったiPhoneを修復する方法をアップルが示していない点だ。iOSがバッテリーの状況に応じて性能を制限する機能については説明している。バッテリーの劣化によって日常的に性能制限を受ける状態に陥っているのであれば、バッテリーを新品に交換すれば改善するのだ。このことは、前述のとおり、新品として使い始めた旧機種が性能制限を受けないことと同じ条件になるからだ。

アップルは1年間の製品保証の中に、バッテリー交換が含まれているが、そのことを知っている人は少ないだろう。

アップルによると、iPhoneはフル充電サイクルを500回繰り返すと、本来の容量の80%しか充電できなくなるとしている。もし1年間の保証期間内、あるいはApple Care+に加入している場合、蓄電量が80%未満に劣化した場合、無償交換の対象だ(参考:https://support.apple.com/ja-jp/iphone/repair/battery-power)。

もし1年間の保証期間外でApple Care+で加入していない場合でも、Apple Storeでのバッテリー交換サービスを8800円(税別)で利用できる。いずれかの方法でバッテリーを交換すれば、バッテリーとデバイスの処理能力の双方を、100%の性能で利用できるようになる。

10万円を超えるiPhoneへの買い換えの前に、8800円のバッテリー交換を試す方が、おそらく多くの人にとって現実的な選択といえる。バッテリーを交換すればこの問題が解決することを、アップルがきちんと説明すべきだろう。

スマートフォン以前、ケータイの時代から、バッテリーは非常に重要なモバイルにおける要素であり続けてきた。

バッテリーには、持続時間を長持ちさせるという技術的な進歩だけでなく、「通信し続けられる可能性」を決定するコミュニケーションや心理面での意味合いも生じてきた。

通信できなくなっては不安が生じるとして、モバイルバッテリーを持ち歩いたり、通信が途切れがちで消費電力が大きくなる地下鉄で電源を切ったり、「機内モード」にしておくなど、バッテリーを長持ちさせる対策がユーザーの間でも共有されてきた。

アップルはiPhoneについて、これまでユーザーがバッテリーパックを自由に交換できる仕様を採用したことはない。バッテリーを交換できない点は、旅行中などで充電できない環境での不便さや、今回の問題のようにバッテリー劣化の改善をユーザー自らで解決できない点は、常に指摘されてきた。

アップルは高性能と省電力性を追究してきた

ただアップルはこれまで、バッテリー対策を先進的に進めてきたメーカーでもある。ハードウェアとソフトウェアの双方を自社で開発し、しかもハードウェアについても、アプリケーションプロセッサ、グラフィックス、モーションセンサー、画像信号プロセッサなどを自社のデザインとし、高性能と省電力性を追究している。

実際、Androidスマートフォンよりも少ないバッテリー容量で、長いバッテリー持続時間を実現しているのがiPhoneだといえる。iPhone Xでは、バッテリーサイズも大きくなっているが、iPhone 7より2時間長いバッテリー寿命を実現した。またデバイスをユーザーが開け閉めしない前提とすることで、金属ボディや薄型化、防水といったデザイン面・機能面の自由度を担保してきたのだ。

今回のバッテリー問題では、バッテリーを含むiPhoneの性能に関して、ハードウェア、ソフトウェアがどのように動作するのか、という透明性の問題を解決して、ユーザーにていねいに説明する必要がある。またApple Storeでのバッテリー交換というほぼ唯一の解決策について、告知を徹底すること、交換の手続きの簡略化・作業の迅速化などの対策を推し進め、ユーザーの理解を得ることに努めていかなければならない。

【著者プロフィール】
松村 太郎(まつむら たろう)

1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。

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