1. 【動悸や発作などの兆候もつかめる】進化し続けるApple Watch

2018.01.21

【動悸や発作などの兆候もつかめる】進化し続けるApple Watch

スポーツ時に身に着けられるデバイスとして進化してきたApple Watch。「スポーツ」に続き、「医療」分野で期待される活用の可能性について、ジャーナリストの松村太郎さんに教えていただきました。

【動悸や発作などの兆候もつかめる】進化し続けるApple Watch
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アップルは昨年11月、不規則な心臓リズムを検出するアプリ「Apple Heart Study」を米国向けにリリースした。アップルはスマートウォッチ「Apple Watch」を、命を救う道具として活用しようとしている。

友人関係、コミュニケーション、位置情報、決済など、さまざまなデータがスマートフォンに集められるようになる中で、自分の健康に関するデータはいまだにその多くが収集されていないままだ。多くの健康な人にとってはさほど必要性を感じないかもしれないが、なんらかの疾患がある人、体調やその変化に注意しなければならない人にとっては、スマートフォンはデータの収集と記録、異常の検出にはよいデバイスといえる。

しかしスマートフォンをポケットに入れているだけではなかなか、体調に関するデータを集めることはできない。そこで、フィットネストラッカーやスマートウォッチといった、より自然につねに身に着けられるほかのデバイスでのデータ収集が必要になる。「Apple Watch」はまさにうってつけというわけだ。

順調に進化してきた「Apple Watch」

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Apple Watchの心拍センサーは、緑色のLEDと赤外線を手首に照射して血流を読み取る方式を採っている(写真:2017年9月にApple Parkで開催されたイベントで筆者撮影)

アップルは、初代Apple Watchを2014年9月に発表、2015年4月に発売。2016年にはApple Watch Series 2が防水機能を強化してスイミングに対応し、2017年のApple Watch Series 3ではiPhoneと同じ番号で単独での通話・通信が可能なセルラーモデルを追加した。

シリーズ当初からApple Payに対応し、手首でのモバイル決済を提案。2016年には日本でのApple Pay導入の目玉としてSuicaをサポートした。また単独での通信に対応したことで、屋外でのエクササイズにスマホを持つ必要がなくなり、より完成されたワークアウト環境を実現している。

アップルはこれまで、販売台数に関する数字を明らかにしていないが、2017年8月に発表した2017年第3四半期決算では「前年同期比50%増」であることを報告している。また2017年9月12日のイベントでは、世界の時計メーカーの売上高でApple Watchが首位となったと発表した

それまで1位だったロレックスは2016年、年間で100万本の時計を販売し、47億ドルの売上高となっていた。Apple Watchはこの金額を上回ったと発表したことから予測すると、アップルは平均価格330ドル程度のApple Watchを、年間で1500万台、四半期ごとに300万~400万台のApple Watchを販売していると予測することができる。

Apple Watchは他のウエアラブルデバイスと同様に、購入ユーザーの動機や用途をエクササイズに定めてきた。Apple Watchにはモーションセンサー、心拍センサーが備わっており、Apple Watch Series 3ではGPSを備えている。

これらのセンサーはスマートフォンにも備わっているが、大画面化するスマートフォンは、スポーツを行うときに身に着けるデバイスとしては大きすぎる。しかし、エクササイズのデータをスマートフォンに収集し、分析できるようにしたい。

そこで、違和感なくつねに身に着けられるスマートウォッチやフィットネストラッカーにニーズが集まっており、より汎用的なアプリも利用できるApple Watchも、最初のマーケティングのターゲットとして、フィットネスを採用している。

アップルはさまざまなスポーツの運動強度からカロリーを算出するアルゴリズムを、独自のラボを構えて研究している。ウォーキング、ジョギング、バイク、スイミングのほかに、ジムに設定されているさまざまな機器のアルゴリズムを搭載し、OSの進化に合わせて、その種目も更新が続いている。最近「クロスフィット」として人気のある高負荷とインターバルを織り交ぜたトレーニングも正確に計測できるようになった。

さらに最新のwatchOS 4からは、Apple Watchとエクササイズ機器を連携させてより正確なトレーニングのデータを収集できる「GymKit」を導入するなど、その充実度を深めてきた。

加えて、音楽定額サービスApple Musicの音楽をWi-Fiやセルラーの通信で自由に聴けるようにしたり、前述のApple Payでスマホがなくても買い物ができたりと、Apple Watchだけで過ごす時間を充実させてきた。こうしたトータルの体験が、他社になかなかすきを与えないApple Watchの強みを作り出している。

スポーツの次の領域とは?

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watchOS 4では、心拍数アプリが刷新され、グラフで心拍数の推移を確認することができわかりやすい(筆者撮影)

Apple Watchは、生活時間にはつねに手首に身に着けているデバイスだ。そのため日々の消費カロリーを余すことなく計測でき、スマホに届く通知などを手首を返すだけで確認できる。

そうしたデバイスの特性を生かす次の分野にも、アップルは着手している。それがヘルスケア分野だ。

Apple Watchそのものには心拍センサーが備わっており、定期的に心拍数を計測して記録している。Apple Watchの心拍センサーは、緑色のLEDと赤外線を組み合わせたライトと、感光性フォトダイオードを組み合わせて計測する「光電式容積脈波記録法」が用いられている。

watchOS 4では、心拍数アプリが強化され、グラフィカルな表示で1日を通じた心拍数の推移を確認できるようになり、また静止状態、歩行、ワークアウトそれぞれの心拍数の平均を算出し、ワークアウト後の通常心拍数への復帰も記録してくれる。

また、静止状態では一般的に、脈拍数が100回/分を超えることが少ないと言われていることから、静止しているのに10分間、100を超える脈拍数を記録すると、Apple Watchでそのことが通知される仕組みも備えた。iPhoneの「Watch」アプリから「通知」を開き、「心拍数」アプリをタップすると、通知のオン・オフ、通知のしきい値となる心拍数を設定することができる。

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10分間の静止状態で、設定した心拍数を上回ると、Apple Watchが通知を出す機能もwatchOS 4に加わった。 動悸や発作などの兆候をあらかじめつかむことができる(筆者撮影)

米国スタンフォード大学の調査によると、Apple Watchの心拍センサーのエラー率は2%で、7つのウエアラブルデバイスの中でトップの精度だった。アップルはそのスタンフォード大学とともに、心臓に関する研究を行うためのアプリ「Apple Heart Study」を米国向けにリリースした。

このアプリをインストールしている人が、不規則な心拍数を記録した場合に通知を受け取ることができ、素早く医療機関に相談することができるという。

Apple Watchには心拍数がつぶさに記録されていた

筆者の家族も、不整脈に悩まされていたことがあった。現在は快方に向かっているが、症状が出始めた際、急に動悸や貧血のような症状を引き起こして倒れ込んでしまい、救急車を呼んだり、救命センターに駆け込んだりしたこともあった。

救命センターで順番を待ち、精密な心電図を取る頃には発作が治まっており、医療機関が記録するデータとしては、なかなか有効なものを取ることが難しかった。

しかしApple Watchには、発作や貧血の症状の前後の心拍数の記録がつぶさに記録されていた。その心拍数の記録を見て、心拍数の低下、すなわち徐脈から、急激な心拍数の上昇頻脈が引き起こされていることがわかり、期外性収縮の疑いがあると自分たちで判断し、循環器内科にかかることになった。

米国での診療を受けることになるが、その手順は非常に煩雑だ。まずかかりつけ医の診察を受け、専門医を紹介してもらうという手順を必ず取らなければならない。また専門医も初回は面接をして、次に検査の予約を取り、その結果から再び診察をするという手順を踏む。結果として、検査結果と所見を得るまで、1カ月以上を費やすことになった。

非常に進展が遅い米国の医療の中で、循環器内科の医師が発した言葉には驚かされた。「Apple WatchやFitbitは医療機器じゃないから、正確な結果ではない」という意見だった。そのうえで、「ずっと気にしていることのほうがストレスになるから、あまり見ないほうがよい」とまでアドバイスされ、Apple Watchでのデータを参考にもせず、これまでどおりの診察と検査のみが行われた。

同様のことを、救急隊員、救命センターの医師、かかりつけ医の誰もが指摘した。米国の医療現場では、Apple Watchなどのデバイスが計測するデータは信頼性が低い、との考えが一般的だった。

アップルは活用へ向けた合意を作っていくべき

この点は、医師と患者で意見が分かれる。

確かに、民生機器と医療機器では、その精度や取れるデータに違いがあるかもしれない。実際、Apple Watchの心拍センサーにはエラー率が2%認められているし、製品によっては許容範囲を超える6%ものエラー率を記録するものもある。「正確ではない」という意見は確かに正しい。

しかし患者からすると、検査結果を得るまでに1カ月以上を要する現在の医療の仕組みに比べれば、2%のエラー率があるというApple Watchのほうが頼もしい存在だ。発作の直後に何が起きたのかを知ることができ、あるいはこれから何が起きうるかを予測し身構えられるほうが、よほど有効だと思ったからだ。

アップルは前述のとおり、Apple Watchの心拍センサーを生かした心臓に関する研究をスタンフォード大学とともに取り組み始めた。これはもちろん重要な一歩だ。しかしアップルはその次の段階として、Apple Watchのデータをいかに医療に活用するか、幅広い医師との間で連携していく取り組みをすべきだ。

Apple Watchのように日常的に計測されている心拍データをどのように活用すべきか。どんな症状を検出できる可能性があるか。iPhoneではすでにHealthKitと呼ばれるAPIで他のアプリから健康に関するデータが活用できるが、医療現場でどのようにこのデータにアクセスし、扱うのか。

こうした事例を重ねていくことで、Apple Watchが、近い将来、命を救う道具になりうる。これがAppleに対して期待したい、スマートウォッチ発展の姿であると考えている。

【著者プロフィール】
松村 太郎(まつむら たろう)

1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。

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