1. 「否定」が人を成長させる【著・松本千登世】『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。』【特別全文公開】第6話

2018.03.16

「否定」が人を成長させる【著・松本千登世】『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。』【特別全文公開】第6話

美容ジャーナリスト・エディターとしてVOCEでも出演、取材、編集、執筆と活躍中の松本千登世さん。その美しさと知性と気品が溢れる松本千登世さんのファンは美容業界だけにとどまらない。こちらの美容エッセイ『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。』(講談社)から、ぜひ今日も、「綺麗」を、ひとつ、手に入れてください。

「否定」が人を成長させる【著・松本千登世】『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。』【特別全文公開】第6話

「『否定』が人を成長させる」

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「『否定』が人を成長させるんだよね」。メールに綴られた言葉に、どきっとさせられました。聞けば、何でもかんでも否定から入る上司なのだとか。そのため、上司への交渉や報告が憂鬱になったり、億劫になったり。要は苦手なのだ、と。その壁を突破するために知恵を絞り、作戦を練る。伝える熱意を持って伝える工夫をする。だからこそ余計に、乗り越えたときの喜びが大きく、そのたび彼女は、巧まずして成長している……。それを意味する、冒頭のひと言だったのです。

ああ、こんな考え方があったんだ、と目から鱗が落ちる思いがしました。仕事でもプライベートでも、誰しも経験する周りからの否定。ところが、私の場合、そのストレスや落ち込みが嫌で逃げているうちに、否定されるくらいならと意思を曲げることが増えたが気がします。そのうち、肯定ばかりを選び、スムースに行くほう、波風が立たないほう、つまりは楽なほうへと流されていたのです。そのためなのでしょう。最近、思い通りにいかなかったとき、その壁を乗り越える気力がない。熱意も工夫も、すっかり忘れてしまった……みたいな。否定を避けているうちに、成長が止まっていた自分に、改めて気付かされたのです。

否定は成長を生む。デメリットはメリットに変わる。頭さえしなやかならば、人はもっともっと魅力的になれるのです。

「A面」と「B面」を自分勝手に見られる人

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私が編集者に転職したのは、30歳になりたてのころ。それまで経験してきたのとまるで違う職業、正直、不安でいっぱいでした。実際スタートしてみると、見ること聞くこと触れること、すべてが初めてなのに加えて、スピードが半端じゃない。本当はずぶの素人なのに、わからないとかできないとか言えない雰囲気。いや、そうさせていたのは自分自身の見栄だったのだけれど。もうだめだ、逃げ出したい……。毎日毎日そんなことばかり考えながら、でも誰にも弱音を吐けないでいました。

そんなとき偶然会ったある女性。私の転職を誰より喜んでくれた敏腕編集者でした。彼女は私に駆け寄るなり、「どう? 慣れた?」。その笑顔に、心の奥に隠していたはずのスイッチを押された私は、「じつは、もう無理かなって。やっぱり未経験にはハードルが高すぎたみたいです……」。かろうじて涙はこらえたものの、私が芯から弱っているのは見え見えだったはず。

すると彼女は、笑い飛ばしたあと、真剣なまなざしでひと言。「編集経験がないというデメリットは、裏を返せばほかのことを経験してきたというメリット。最初から編集を経験してきたというメリットは、それしか経験がないというデメリット。どっちの側面を見るかはあなたの『自由』なのよ」。そしてまた笑顔に戻って、大丈夫大丈夫と肩を叩いてくれたのです。

彼女の発想力に触れたとたん、押さえ付けられていた自分がふわりと浮き上がった気がしました。あの偶然がなかったら? この言葉がなかったら? ことあるごとに心がじわりと温かくなります。何事にもA面の裏には必ずB面があるのだと改めて知りました。A面ばかりに目を向けがちだけれど、B面に目を転じると意外にも生きやすくなることがあるのだと。物事が持つ側面をある意味、自分勝手に見つければいい。それを繰り返すうちに、きっとタフな女になっているはずだから。

ネガティブなことほど、本性を露わにする

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まだ航空会社に勤務していたころだから、恐縮するくらい、前の話。入社試験の一次面接で受け付けを担当することになった私は、ほんの数年前の自分に思いを馳せながら、緊張しながら待機していました。

そこに人事担当の上司。入社試験では私たちの印象がすべてを決めるのだと念押しにやってきました。そして最後にひと言。

「『受かる人』に対しては、どんな態度でも構わない。重要なのは『落ちる人』。その人たちが私たちのお客様になってくれるか否か、それはあなたたちが決めるのだと、自覚してください」。

受かる人は、将来的に私たち側になる。でも落ちる人は、全員がお客様になる可能性がある。家族や友人など背景には10倍、100倍、いや想像以上の人がいる……。その人たちが、たまたま縁がなかっただけと、自分たちの会社にポジティブな感情を持ってくれるか、はたまたこの会社の飛行機には乗りたくないとネガティブな感情を引きずるかで、雲泥の差が生まれる、と。

サービス業の怖さとそれゆえの深さを思い知らされたような気がしました。断るとき、謝るとき、違う意見を言ったり、残念な知らせを告げたりするとき。どんな職業に就いている人にも、いやプライベートにだってそんなシーンがあるはずです。人は「負」の何かを相手に伝えるときこそ「本性」が見える。誠意を持って伝えるか、心の中で誰かや何かのせいにしながら伝えるか。正直、逃げたくなる自分が顔を覗かせるたび、この言葉を思い出すのです。

伝え方ひとつで、次も変わらずいい関係でいることはできる。それどころか、さらにいい関係を築ける可能性だってある。同時にこの場面では、受け取り側の「度量」も試されるのでしょう。「もっといい次」を作るのは、お互いの心意気次第。どちらの立場でも、誠実に関係を育てられる人でありたい、大人になるほどにそう思うのです。


結局(けっきょく、丁寧(ていねい)な暮(く)らしが美人(びじん)をつくる。 今日も「綺麗(きれい)」を、ひとつ。

結局(けっきょく、丁寧(ていねい)な暮(く)らしが美人(びじん)をつくる。今日も「綺麗(きれい)」を、ひとつ。

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