1. 松本千登世の『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる⑬』 “「普通」は、かけがえのない「特別」である”

2018.05.30

松本千登世の『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる⑬』 “「普通」は、かけがえのない「特別」である”

美容ジャーナリスト・エディターとしてVOCEでも出演、取材、編集、執筆と活躍中の松本千登世さん。その美しさと知性と気品が溢れる松本千登世さんのファンは美容業界だけにとどまらない。こちらの美容エッセイ『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。』(講談社)から、ぜひ今日も、「綺麗」を、ひとつ、手に入れてください。

松本千登世の『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる⑬』 “「普通」は、かけがえのない「特別」である”

「普通」は、かけがえのない「特別」である

私より先に地元で銀行員として社会人デビューした親友は、当時、親元を離れて学生生活を送っていた私に「親のお金じゃなくて自分で稼げるようになったら、ね」と会うたびご馳走してくれました。カフェでのランチだったり居酒屋での一杯だったり。20歳そこそこの私たちは決して贅沢をしなかったけれど、その心意気が彼女らしくて、恐縮しながらもずっと甘えていました。いつか恩返しする、そう心に誓いながら。

彼女は高校の同級生。出会ったころから肝が据わっている人で、クラスメイトもバレーボール部員もきっと家族も、いろいろな場面で彼女に支えられていたに違いありません。明るくて正義感あり。タフで包容力あり。何より素直。

神様が才能を知っていたからでしょう、その後、彼女はひとり何役もこなす濃密な人生を与えられます。

結婚後は夫の家族とともに暮らし、男の子ふたりをもうけ、嫁として母親として家族の面倒を見、職業柄、家を空けがちな夫に代わり父親役をも引き受け、フルタイムの仕事を続けました。私ならとうに逃げ出しているだろうと思う難事が繰り返し繰り返し起こる日常。それでも彼女は、すべてを素直に受け止め、乗り越え、笑い飛ばし続けたのです。

そして今。久しぶりに会った彼女の眩さにはっとさせられました。肌も髪も艶やハリがあるし、体形もまるで変わっていない。でもそんな表面的なことでは決して説明がつかない、存在の圧倒的な輝きに改めて感動させられたのです。

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女優・樹木希林さんの言葉を思い出しました。「女優ほど普通に生きなきゃいけない職業はない」。普通に生きることが女の奥行きになり、味わいになり、やがて圧倒的な存在感になる……。これぞ美しさの本質と、彼女に気付かされました。

私たちは、普通の時間や空間に、普通の毎日や人生に飽きることがあります。でもじつは、美しさも幸せも、そこにあると知っています。普通を生きて、振り返ったときに初めて、それがかけがえのない特別だと気付く。自分にそう言い聞かせているのです。

「コクは一朝一夕には作れない、料理も人間も」

あるシェフの取材で、はっとさせられた言葉です。料理がそうであるように、年齢を重ねたほうが、人間も女性もコクが生まれる。そう思うと、少しだけ老化が怖くなくなるのです。

ポジティブは、才能か癖か

ある舞台を観に行ったときのこと。その日は、舞台終了後、出演者たちが特別に「舞台裏」について語るイベントがあり、演出に当たったノゾエ征爾さんもその場に立ちました。

ノゾエさんと言えば「劇団はえぎわ」を主宰、作家であり演出家であり、俳優としても活躍するマルチな才能の持ち主。演出するに当たり、キャスティングや台詞、情景に込めた思いを語り、その流れで劇団名の由来に話が及びました。すると……?

「由来は『生え際』。一般的に(主に男性ですが)、生え際は後退します。後退したのち、頭部が光ります。つまり、(生え際は)のちのち光る」。そう、この名前は「大器晩成」を意味している、と言うのです。

観客の大きな笑いに包まれる中、ノゾエさんのセンスを見せつけられた気がして、頭の中がフル回転していました。この人が作るもの、この人が演じるもの、いや、何より、この人自身の生き方に、無性に興味が湧いたのです。

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ネガティブな出来事を逆手に取り、くるりとポジティブに変えてしまう人っているもの。同じことが起こっても感じ方や考え方が、私とはまるで違う人って。決まってその人はいつも軽やかにポジティブな側面を捉えていて、一緒にいる私たちまで「なんとかなる」と信じさせてくれます。

そのたび思うのです。ネガティブかポジティブかは、もしかしたら生まれつきの「才能」だけじゃないのかもしれない。むしろ、後天的に養われる感じ方や考え方の「癖」によるものなのじゃないかって。

誰だってポジティブに変えられる。時間はかかるかもしれないけれど、私にもきっとできる。目覚めさせるか否かは、自分次第……そう言い聞かせながら、ネガティブの裏側を探す努力を続けているのです。


結局(けっきょく、丁寧(ていねい)な暮(く)らしが美人(びじん)をつくる。 今日も「綺麗(きれい)」を、ひとつ。

結局(けっきょく、丁寧(ていねい)な暮(く)らしが美人(びじん)をつくる。今日も「綺麗(きれい)」を、ひとつ。

《松本千登世さんの美容エッセイを全文公開中!前回の記事はこちら》
松本千登世の『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる⑫』 ‟美しい人とは、美しい生き方が目に見える人”